第46話 7層の罠

 安全地帯セーフティーゾーンで焼き肉を堪能し、英気を養った2人。

 レオには一角兎ホーンラビットの毛皮を出して、布団がわりに寝てもらったらぐっすり眠れたようだ。


 空間収容イベントリには生き物は入れないから、収容した時点でノミやマダニは除去されてたと思うけど、獣脂までは取れないから臭かったと思う。

 よほど疲れていたらしい。

 

「可哀想に――もう少しの辛抱だぜ」


 と寝顔に語りかけるとフニャリと微笑んで

「お肉……」

 だって……(笑)


――――第7層に入る手前。


 地図を確認していたレオが顔を上げた。

「第7層と8層の堺に危険地帯ホットスポットがあって、オーガが出てくるから注意してね」


「オーガって?」

「すっごいガチムキのツノの生えた大男。力は強いけど、4人がかりなら倒せなくもないから脅威度4ってところかな」

 

 ふと、何かを思い出したように

「前回ビルは必死に逃げてたけどね」

 へっと鼻で嘲笑わらった後、暗い顔をした。たった一人で地獄ダンジョンに置き去りにされた恐怖を、思い出したのかも知れない。

 

「大丈夫だ。心配ないぞ、何が出てこようがブッ飛ばす」


 と空間収容イベントリからバスターソードを取り出し、ブンッと振るって見せた。


「心配すんな」


 フェイスガードを持ち上げてニッと笑って見せると、やっと少し口角を上げてくれた。


――そして7層に入ると。


 江戸時代の宿場町みたいなところへ出た。

 ――なにこれ? 


「これが危険地帯ホットスポットの怖いところさ。この雰囲気ってなんか安心するだろ? そこを突いてくるんだ」


「騙し討ちかよ」

「第7層は罠の層さ。人の心の隙をついて罠に誘い込むんだ」

「厄介だな……」


 両脇には木造二階建ての建物が並び、馬車が2台ほどすれ違えるくらいの大通りを歩いていく。


『助けて――っ』

 絹を裂くような悲鳴が聞こえる。


「な?!」


 その声に釣られて走り出そうとするが、レオが腕にしがみついてくる。


「何すんだ?!」

「これが罠だよっ」

「そんな言ったって……?」


 建物と建物の間から砂埃を巻き上げて、黒い塊が転がり出て来た。


「な?!」

 レオを後ろへ回して身構える。

 そろりそろりと近づいて見ると血だらけの人。


 冒険者なのだろうか?

 革鎧と鉄の鉢金を被っている。見開かれた瞳に光はない。


「いっ!?」


 遠間からレオの悲鳴が上がった。

 ビュッと空気が震えた気がしてその場から飛び退くと、そこには一抱えほどある石の塊が落ちて転がる。


「オーガだっ」


 レオの悲鳴とともに、細い路地から額から2本の角を生やす大男が飛び出して来た――10人も。

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