第45話 沈黙の焼き肉

 こんな時は焼き肉でしょ? 

『フライパンセット……一角兎ホーンラビット3羽

 塩胡椒しおこしょう……一角兎ホーンラビット 10羽

 交換しますか?』

 

 塩胡椒しおこしょう高ぇな!? おいっ!


 とりあえず小刀を借りて、オーク肉を取り出し適当な大きさに切り分けると、塩胡椒しおこしょうを肉にすり込んで馴染ませていく。

 次にフライパンを取り出し竈門かまどへ乗せる。


 オーク肉には程よく背脂ラードも乗っているから焦げ付くことは無さそうだ。念の為ラードを、こそぎ落としてフライパンに投入。

 フライパンにしばらくラードを馴染ませると、オーク肉を投入する。

 

 ほんとなら一時間ほど寝かせた方が良いらしいのだが、俺の腹の虫が抗議してぐうぐう鳴っているから、ほどほどで投入することにする。


 ジュウ――ッと子気味良い脂が跳ねる音がして、塩胡椒しおこしょうと脂の焼ける美味そうな匂いが漂い始めた。

 表面は強火で焼いて程よく焦げ目をつけると、フライパンセットのトングで裏返し、少しフライパンを持ち上げて火力を調整する。

 これで肉の表面が焼けて中に肉汁か閉じ込められるはずだ。


 レオがせっかく起こしてくれた火だが、薪を引き抜いて中火くらいに落とす。フライパンセットについて来たフタを被せ、中までじんわり熱を通していく。

 

 レオの視線を感じて「ん?」とすると口をワナワナと震わせている。


「どうした?」

「アンタ、それ、どした?」


 なんだか未開地の原住民のようになってるんだが?


空間収容イベントリが進化してな。いろいろ交換できるらしい」

「らしいって……アンタ。金属もアリなのかよ?」


 ん? そういやお菓子も出せたが?

 食材→食品って流れで、深く考えないようにしてたようだ。


「んじゃ、食器とかは?」

「できるかもだが?」

「やってよ。熱くて食べられないじゃん」


 しょうがねぇな、と苦笑いする。もらえる前提の話になっているんだが、甘えてくるほど信頼してもらえているかと思うと、少し嬉しくなる。


「在庫システム、オープン!」


 なんだか国民的アニメの青いたぬき猫みたいになってるぞ、俺氏。


『食器セット……一角兎ホーンラビット1羽

 交換しますか?』


 これを2つ……ポチっとな!


 ガシャガシャ出てくるのを受け止めて、さっきの一角兎ホーンラビットの毛皮の上に並べて行く。


 焼き上がりを素早く食器に移すと、セットで付いてきたナイフとフォークで切り分ける。溢れ出る肉汁と湯気とともに至高の香りが――。


「頂きます」

 

 幸せな沈黙の時間が過ぎていった。

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