第43話 セーフティーゾーン

『おのれをまず知れ』

 そう言うとこぶに戻り巨木の一部に変わり果てた。


――――レオ目線です。


「どゆこと?」

 思わず口をついて出てしまった。

 さっきから安全地帯セーフティーゾーンへ向けて、第8層の山道を歩きながら考えている。

 

 漫然と歩く者を容赦するほど、この迷宮ダンジョンは甘くなくて3羽の一角兎ホーンラビットに襲われたけど、そこは目の前にいる悪霊騎士リビングアーマーが、あっという間に撃ち落としてくれた。


「ねぇショーカン。どう言うことだと思う?」

「なにが?」

「さっきのよ」

「気にすんな。ボケた魔物の戯言たわごとだ――そもそも名前も間違えてたじゃないか?」


 そう言えばアレは私のことをレオナと呼んでいた。

 レオナと言えば、このコンスタンティ皇国の王女レオナ・アンガディウス様が真っ先に思い浮かぶ。

 もっとも王女にあやかろうと、この国の女の子の名前にレオが入るのは珍しくないのだけれど。

 コンスタンティ皇国の国教であるアウーラ教の神官でもあり、私とは対極の究極のお姫様ハイエンドトップカーストだ。


「そんな事より大丈夫かよ? その……なんだ、悩み事があるなら聞くぞ?」

「え? ああ……ごめん」


 ここは迷宮ダンジョンだ。

 不注意で死ぬなんて当たり前の世界で、私は何やってんだろ?


 山のちょうど5合目あたりに、安全地帯セーフティーゾーンはある。誰かが野営用の柵を作ってくれていて、ところどころに石を並べた竈門まであった。

 迷宮攻略ダンジョンアタックをするパーティーは、下の層に向かう前にここで一晩過ごし、英気を養うのが通例だ。

 思えばここにいた時に、ビルは私の背嚢バックパックに魔石を潜ませたのだろう。


 安全地帯セーフティーゾーンには、ちゃんとトイレスペースもある。と言っても縦穴の上に2枚の踏み板が渡されているだけ。

 目隠しは2本柱が立ってて、その先に布を引っ掛けるようになっている。

 布は各自が持参するものだから今は丸見えで。


 私は切実な問題に直面していた。――そろそろトイレに行きたい。

 ――どうしよう。

 いくら底辺女子とは言え、顔を会わせた死霊騎士リビングアーマーに相談するのは恥ずかしい。


 モジモジしていると、なぜか死霊騎士リビングアーマー空間収容イベントリから一角兎ホーンラビットの毛皮を取り出して、目隠しを作り始めている。


「何やってんの?」


「え? 普通いるだろ? トイレはキャンプの基本だし」


 そう言って準備が終わると、

「俺は一角兎ホーンラビットを狩ってくるから、火の準備をよろしくな?」


 そう言って安全地帯セーフティーゾーンから出て行った。


 良いやつだなぁ――遠ざかるのを見送ると、早速そこへ駆け込んだ。

 右腕に巻き付いた絆が優しい光を放っていた。

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