第42話 タレスの予言

 100メートルを超す巨木の幹に瘤が突き出て、そのこぶに顔が浮かび上がっている。

 

『ワシか? ハイトレントのフィロソフォス知恵を愛する者・タレスじゃ』


――――引き継ぎショーカン目線です。


 第8層の山中で安全地帯セーフティーゾーンへ向かう途中に、変な魔物と遭遇した。


『レオナよ……久しいの』


 さっきと同じセリフを繰り返す。

 異様だが敵意は感じないから、今は情報を引き出す方が良いと判断した。

 

「レオ、お知り合いか?」

「トレントに知り合いなんているわけないじゃん。話す魔物なんてアンタ以来だよ」


『人生で最も難しいのは己れを知ることらしいからのぉ。レオナ、なんじなんじ自身の事をどこまで知っておる?』


 それ哲学? やっばいヤツと会っちまったよ、おい。


「レオ、人違いしてるらしいぞ? ともかく俺の後ろへ隠れてろ。攻撃されたら安全地帯セーフティーゾーンへ逃げろ、後から追いかける」


『フォフォフォ――守護者ガーディアンは覚醒したようだの? まだ未熟なようじゃが――レオナ、なんじはおのれの事をどこまで知っておる?』


 大木の幹から飛び出たこぶしわくちゃな顔を、さらにしわくちゃにして笑ってやがる。それにしても、この木偶でくの坊、何言ってるんだ?

 レオも同じ気持ちだったらしく。


「何言ってんだよっ?」


『知らぬか……まずはおのれを知れ。さすれば導く者ドゥクスが現れよう』


導く者ドゥクスって何? 意味わかんないよ」


希望へ導く者ドクトリーナじゃ。欲望が互いを喰らい選民の欲望が破滅を呼ぶ、この世界を希望へ導くものじゃ。学びて知恵を広めよ』


「な……なんの知恵だよ?」


『この世に七賢あり――この世界を救う知恵を持っておる。だが不幸にも身動きが取れずにいる。滅びを免れたいならばその知恵を学べ』


 滅びとか――?

 俺はなんか引っかかった。

 こっち異世界にくる時の、あのメッセージ凍結フォルダが関係してるんじゃないか?


立体交差ジャンクション……特異点? 女の子……守れ? チート……鎧騎士?』


 最後の鎧騎士は死霊騎士リビングアーマーの事で女の子はレオだ。守れ……これは今まで流れでやって来たことで、この子がここを脱出するまではやるつもりだった。

 そこから先は彼女の自由意志だ。

 俺としちゃそこまで干渉する気はなかったし、考えてやしなかった。


 だが予言めいたことを言われると、誰かしらの意志でここに送り込まれたような気がしないでもない。


『おのれをまず知れ』


 そう言うとタレスは皺くちゃな顔を硬化させる。

 そのままただのこぶのように固まって、目の前の巨木の一部に変わり果てた。

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