第41話 フィロソフォス・タレスの諸元

 俺は十字軍の敬礼のようにバスターソードを胸の前に捧げ持つと思い切りぶっ刺す。クリスタルヤドカリはボヒュンと魔素を吐き出して俺の空間収容イベントリに消えた。

 

「凄いよ! ショーカンッ。アレだけデカけりゃ脅威度48はあるよ」


 ……なんで?


 その時レベルアップのアナウンスが聞こえた。


――――ショーカン目線です。


 瞬きすると、画面が展開する。

『アイテムを手に入れました。選択してください』

 アナウンスとともに、アイコンがスクロールしていき文字が浮かび上がる。


『◯右腕

 ◯左腕

 ◯右足

 ◯左足

 ◯下腹部』


 ここは決めていた下腹部一択だ。

 胴体が揃っていれば人間らしい生態、つまり食って排泄したり呼吸をする人間らしい生活になるから、再誕したと言えるんじゃないだろうか?


 ポチッとな!


 ぐうっと腹の下が押し出されて行く感じ?

 鎧の内側に柔らかい布の感触を感じる。その先にスポンジ的なクッションの感覚もある。

 胴体が一通り揃ったから“感触”も戻ってきたのだろう。これで文字通り再誕リボーンだ。


「ショーカン大丈夫?」

 レオが気遣わしげに聞いてきてくる。


「ああ、大丈夫だ。心配いらないよ、早く安全地帯セーフティーゾーンまで行こう」


 どっち? と砂浜を抜ける道と山へ続く道を、指でくいくいっと指すと、山へ向かう道だという。

 さっきほどではないにしろ、またクリスタルヤドカリに襲われては敵わないから、あちこちに小石を投げながら移動を始めた。


――――山道に入ると、広葉樹の葉が頭上を覆ってくる。


 さっきまで夕暮れ時くらいの明るさが、途端に陰って薄暗くなってくる。迷宮ダンジョン特有の獣臭さがここでは薄れ、森特有の土の匂いがした。


「ぼちぼち山系の魔物が出てくるよ。山系で注意しなくちゃいけないのはトレントさ。脅威度5ってところだけど、木に擬態してて――」


「あんなのか?」

「――そう、あんな感じで……うわぁぁぁ――っ」


 100メートルを超す巨木の幹に瘤が突き出て、顔が浮かび上がっている。

 瘤には目鼻と口まで再現されて、老人のように皺だらけの顔をニヤリと歪めた。


『レオナよ……久しいの』


 と話しかけて来た。


「レオ、どうやらボケたトレントみたいだぜ」

「喋る魔物なんて聞いた事ないよっ、それよりこれはトレントじゃない。」


「なんなんだ? あれは」

 

『ワシか? ハイトレントのフィロソフォス知恵を愛する者・タレスじゃ』

 

 ややこしいのが出てきたよ、おい。

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