第40話 レベルアップするリビングアーマー

『脚の付け根の節の間を狙って。そこが急所だ』


 レオの声が聞こえた気がした。

 俺は十字軍の敬礼のようにバスターソードを胸の前に捧げ持つと、思い切りぶっ刺した。


「ギッ!」


 甲高い鳴き声が響き、痙攣する振動がバスターソードを伝ってくる。


「ギギギ――」


 やがて痙攣がおさまると、ボヒュンと魔素を吐き出して俺の空間収容イベントリに消えた。

 

「ショーカンッ、大丈夫?! ショーカン!?」


 息を切らし駆け寄ってくるレオ。

 ハイタッチで迎えようと両手を差し出すと、少し驚いた顔をしてレオはパチーーンと手を叩き返してきてくれた。


「やったね! ショーカンッ。アレだけデカけりゃ脅威度48はあるよ」


 ……なんで?


 その時レベルアップのアナウンスが聞こえた。


――――レオ目線です。


「ギッギッキッ」


 冒険者組合の、四階建ての建物みたいなクリスタルヤドカリが姿を現した。


 クリスタルヤドカリはいいとこ体長1メートルだ。

 落とし穴を掘って、ひっくり返ったところを槍でトドメを刺して終わり。

 Dクラスで4人もいれば討伐できる魔物――だから脅威度4。

 

 それが2メートルになると特異種の脅威度8――体長が倍になれば標準の倍の脅威度と言われる。

 だけど目の前にいるのは12メートル。標準型の12倍だから単純計算で脅威度48。


「なぁ……こんな時、冒険者ってどうするんだ?」

 ってショーカンが聞いてくる。


「逃げるに決まってるだろ!」


 そう言って一目散に駆けだした。

 ザッザッと砂を蹴る音が着いてきていたから、一緒に逃げているとばかり思っていた。だけどそれは離れていって――。振り返ると「先に行けっ」とショーカンが前を指差す。

 

 無理だ。

 いくら脅威度30のサイクロプスを倒したって言っても、コレは脅威度48はある。


「早く逃げてっ」


 と声をあげてもカニ爪を避けるのに必死なようで、私の声は届かない。

 ボスッとくぐもった音が聞こえると、ショーカンの姿はそこになかった。


「ショーカンッ」


 すると不思議なことが起こった。

 右腕に巻きついているテイムの絆から、ショーカンの視界が流れ込んでくる。

 クリスタルヤドカリの腹部が動いていて、ショーカンはどこを攻撃すれば良いか迷っていた。


『脚の付け根の節の間を狙って。そこが急所だ』


 と思念を送って見ると、クリスタルヤドカリが消えた。

その跡から現れたショーカンが、ハイタッチの格好をして待っている。


『レベルアップしました』

 と言うアナウンスがショーカンから聞こえた。

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