第33話 パパ目線なリビングアーマー

 レオがついに一角兎ホーンラビットを仕留めることができた。だが補助をしてやったことが不満なようだ。

 

「そうか? んじゃどんどん狩っていこ」

 と再び第八層を目指して歩き始めた。


――やがて第八層の入り口が見え始めたころには。

 

 驚きましたよ、ええ。

 聞いてくださいよみなさん、うちのレオって天才じゃないですか?


 もう俺の補助なしで一角兎ホーンラビットを狩れるようになったんですよ。

 凄くないっすか? え? 親バカ目線?


 そうかも知んない。

 

 最初は同情から始まった保護者感覚が、今やそんな感じ親バカ目線だ。だがこのような暑苦しい親近感は、年頃の女子には鬱陶うっとおしいかもだし自重せねばなるまい。


「レオッ、そこっ」

 と指示するだけでレオはグルグル回している投石器を、ビュンと唸らせて一角兎ホーンラビットを倒して行く。


「かぁ〜っ、凄いぞレオッ。もう天才っ」

「あんまおだてないでって」


 と照れるレオに

「いや謙遜は美徳だが、過ぎると嫌味だぞぉ。この天才っ」

 

 と称賛を惜しまない。

 なにせ自信をつけてもらわなくちゃな。例えばあんな化け物と出会っても、怯えて動けなくなることがないように。


「ところでレオ、投石器をセットして離れてろ」


 そう言うとシダ類の葉が生茂る林の向こうをにらみつけた。禍々まがまがしい魔力を感じる。


「グォォォ――ッ!」


 恐ろしい勢いで、身長3メートルはありそうな化け物が飛び出して来た。


 なんじゃ? これ?


 後ろから「ひぃ!」と怯えたレオの悲鳴が上がる。

「サ、サイクロプスだよ、なんで? なんで八層に――はぐれなの?!」

 と親切な解説までついてくる。


「サイクロプス?」


 サイクロプスと言えば、ギリシャ神話に登場する一つ目の化け物でムッキムッキの筋肉と、頭のほとんどがデカい一つ目が占めている。


「グォラッ」


 吠えると同時に、手にした剣を振り下ろして来た。


 ドォンッと地面が揺れて、砲弾が着弾したように大きく抉れる。


「くっ!?」


 横っ飛びに転がって素早く立ち上がると、半身立ちになる。左手は手刀の形に右手は腰のあたりに添える感じで。

 

 身に染み付いた空手の組み手スタイル。

 だが空手三段、剣道初段と言われる。それほどリーチと武器相手には差が出る。

 それでも守られるべき少女が後ろにいて、彼女を待つ家族ライルがいるとなれば、どれだけ不利でもやらねばならない。

 

 初撃で勝負は決まる――武器を持っている相手に様子見などは、よほどの実力差があっての話。


「シッ」


 フェイントで釣られた敵の剣先を交わすと、渾身の逆突きを叩き込んだ。

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