第32話 過保護なリビングアーマー

「じゃあ行くか」


 鉢金の水分を拭き取ると、俺たちは安全地帯セーフティーゾーンから踏み出した。


――――ショーカン目線です。


 とりあえず投石器を使えるようになったレオ。

 あとは実際に獲物を狩ってもらい自信をつけてもらいたいところだ。

 止まっている的に当てるのと、動く的に当てるのではまるで違うからな。


「――一角兎ホーンラビットくらいは狩れるようにならないと」

 と言ってたし。


 そこで俺氏。

 ナイスなアイデアを思いついた。


 半殺しにした一角兎ホーンラビットを狩らせれば、良いんじゃね?


 大型犬くらいある一角兎ホーンラビットをいきなり狩れるわけがない。一旦弱らせて狩らせてみれば?

 オオカミなんかも、そうやって狩りを覚えさせると言うし。


 なぜか俺には一角兎ホーンラビットが潜んでいる場所がわかる。

 奴らは近づいて来た獲物を茂みに待ち伏せしていて、いきなり襲ってくるから殺気がダダ漏れだ。


 そこへ向かって殺さない程度に手加減して投石する。


「ピギャ!」


「レオッ、あそこだ」

 

 不思議なことにレオはすでに投石器に石をセットしていて、グルグル回していた。


「えいっ」


 と放つ石が藪の中へ飛び込むと、驚いた一角兎ホーンラビットが飛び出してくる。

 もう少し弱らせた方が良かったか?


 左手の予備の石を素早く放って腰のあたりに命中させる。


「ギャッ」


 と悲鳴が上がると一角兎ホーンラビットは完全に動きを止めた。


「レオッ、今だ」


 と告げるのを待っていたかのように、シュッと放たれた石は狙いを外すことなく一角兎ホーンラビットに命中する。


「ピギェッ」


 と悲鳴を上げて肉と皮へ変わる一角兎ホーンラビット


「やったな?!」

「やったぁ!」


 ハイタッチを繰り返すレオと俺。

 獲物を空間収容イベントリに仕舞おうとして、ふと考える。


 これは記念すべきレオの初獲物だ。

 これまでの交換べットのような一角兎ホーンラビットとは区別したい。

 そこで空間収容イベントリの在庫システムを呼び出す。


(区別するタグ付けして……レオ専用ファイル作成ーー)


 と念じるとPCのフォルダのようなアイコンが出てくる。


 レオの似顔絵みたいなのがフォルダについてて、ちょっと可愛い。しかもピンクの色付きで間違えようがない。


「ヨォシ〜!」


 一人ご機嫌で騒いでいると、レオが複雑な顔をしてる。


「ーーーそこまで喜ばれると、なんか複雑」


 ん? そうなのか?

 これはアレか? 本人を差し置いて始業式で涙ぐむ親にドン引きする新入生って感じか?


「そうか? んじゃどんどん狩っていこ」


 と再び第八層を目指して歩き始めた。

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