第30話 リビングアーマーは名コーチ

 空間収容イベントリの在庫変換システムで一角兎ホーンラビットを投石器へ変換した俺。

 大きめの石を拾い的を作るとレオに投石器を差し出した。


「まずはやってみそ」


 と、石をセットしてやり投げさせてみるが、はっきり言ってへっぴり腰だ。


 そこで最も力が伝わる位置を掴んでもらうため、石をセットせずに、岩を投石器でムチ打たせることにした。


 最初のうちはペシッ、ペシッとヘナチョコな音を立てていたが、ペチ――ンッと良い音が鳴る。


「それだ! 良いぞ、凄く良い。もう一回」

 ペチーーンパチーーンッと交互に音がする。

 

「良いねぇ」

 ペチーーン

「才能あるよ、さっきよりずっと良い!」

 ペチーーンッ

「これは二匹はやれたね」

 ペチーーンッ

「おっほー、最高!」


 なんてやってたらサマになって来た。


「ちょっとコツ教えるな」

 

 と言いながら野球のワインドアップの構えを見せる。投げる方向に体を水平に置いて、左手で的を指差し体の捻りで投石器を振る構えだ。

 何度かこの構えから岩を叩かせていると、ペチーーンがパチーーンッに変わる。


「な? さっきより良い音がしたろ?」


「そ、そう?」

 ちょっと恥ずかしげだけれども誇らしげでもある。


「うん、絶対良い。次にな――」

 と体軸の使い方をレクチャーする。頭のテッペンを指先で固定してブレないように意識させるやり方だ。


「岩は叩かなくて良い、強く振らなくても。投石器の風切り音を聞いてて」

 と再び振るわせると、ビュンと唸る音がする。


「その音な。それを覚えてて、次に軸をブラさないように投石器の先を早く振って」


 と言うとピュンッと鋭い音に変わった。

「良いねぇ――天才がここに爆誕だ」

 と褒めて煽てる。


 次は左手を的に向けて照準を定め、左手を引く力で右手を速く振らせてみる。もともと飲み込みが早いのか、ピュンッと甲高い風切り音が出た。


「スッゲェぞ! 俺もこんなに早くこの音は出なかった」

 もうベタ褒めだ。


 次は岩を叩かせて体重移動を実感させる。

 その場で振ってるだけなら岩には届かないから、自然と後ろから前へと体重移動が起こる。


「当たる瞬間に腰で打つつもりで――それだけ注意してやってみそ」


 と、言うと見事なフォームでパチーーンッと音を鳴らした。


「どうだい? ずいぶん違うだろ?」

「スッゲェな!? ショーカン!」

 レオもちょっと興奮気味だ。


「ああ、お前は天才だ。二、三回やったら休憩な?」


 と言っても夢中になって投石器を振り続けるレオの耳に届くことはなかった。

 

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