第28話 リビングアーマーのつまらないものですが

 迷うことなく要求に応えようじゃないか!


空間収容イベントリオープン!」


 甘い物、甘い物っとぉ。


 スクロールが全て展開されると、さっきとは少し画面が違うのに気づいた。


『◯一角兎ホーンラビットと交換

  →◯ゴーフル……ワッフルのこと。熱した型に生地を流し火にかけて焼くお菓子。蜂蜜やメープルシロップを窪みに入れて食べると美味しい。

 

  →◯ ダリオル ……エッグタルトのこと。型に生地を敷き、卵と牛乳でつくったクリームを入れて窯で焼いたパイ菓子のこと』


 解説までついてやがる。


「ゴーフルかダリオルってでのが出せるらしいんだが、どっちが良い?」


「両方っ」


 わーい、食いしん坊かよ。

 それじゃあ、ポチッとな。


 また手首があり得ない方向に曲がって、ゴロゴロとゴーフルとダリオルがこぼれ落ちて来る。それをレオはシャツの裾を広げて受け止めた。


「ひゃあ、夢だったんだよね。食べ切らないくらいのお菓子を抱えること」


 テンションが振り切れたんじゃないか、と思うくらいにピョンピョン跳ねて喜んでいる。

 だがすぐにシュンとして「まだ出せる?」と聞いてくる。


「ああ、一角兎ホーンラビットと交換で山ほどな」


 ああ良かった、と満面の笑みを浮かべ

「弟のラエルにも食べさせてやりたかったんだ。あの子まだ8歳だから――」

 と寂しげな顔をする。


 この手の話に俺の涙腺はもろい。

 両親を早くに亡くし、貧しさの中でひっそりと肩を寄せ合って生きる姉弟きょうだい

 その絵が頭の中に浮かんだだけで、滂沱ぼうだの涙が溢れた。


「お、おぅいくらでも出してやらぁ。良いからそれ食べろ、弟のラエルにもたんまり出してやっから」

 こんなクッキーもどきのお菓子で喜んでくれるのなら、いくらでも出そうじゃないか。


 レオはグスグス鼻を鳴らす俺を見て、しばらく不思議そうな顔をしていたが、食欲が勝ったのかニコニコ笑いながらゴーフルをパクつく。


 あっという間に食べ終えると、パンパンと手でシャツを叩き真顔になると


「一人でも一角兎ホーンラビットを狩れるようになりたいんだ。ショーカンの石投げを教えてくれないかな? お菓子に変えるためだけじゃなくて、これから生きていくためにも」

 と頼んでくる。


 それくらいお安い御用だ。

 一も二もなく了承すると、嬉しげに焚き火へ向き直り

 やがてウトウトし始めたから、シダ類の葉を集めて簡易なベッドを作ってやる。

 

「ちょっとでも寝とけ。不寝番はしといてやるから」

 と言うとコクンと頷き、くぅと寝息を立て始めた。

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