第21話 価値観の相違を知るリビングアーマー

 銀貨一枚といえば黒パンが10個も買える。

 そんなのを行水じゃあるまいし、頭からたっぷりかぶったとすれば気が遠くなりそうな贅沢だ。

 とりあえず聞いてみることにする。

 

「ねぇ、さっき私にぶっかけたやつ。あれは回復水なの?」


「ん……? そうだが?」


 めまいがしてきた。


「それ……もっと出せるの?」


「ん? あれか? オークの魔石と交換したからな。たっぷりあるぞ。なんか容器があれば今度はゆっくり出せると思うぞ。いるか?」


 ちょっと待って、と突き出した手がワタワタしてくる。


「それいくらするって思ってんの?」

 

「知るわけないだろう? そんなものよりレオの命の方が大事に決まってるじゃないか」


 サラリと凄い事を言うわ、この死霊。

 底辺女子にとってってワードは、憧れはあっても手に入らないものなのに。

 だから必要以上に警戒する意識が先に立つ。


「と、ともかくあれは貴方そっちのせいだからね。後でどうこう言わないでよね、わかった?」


 つ、と立ち止まるとフェイスガードを上げて、死霊騎士リビングアーマーは半身で振り向き、怪訝な顔を向けた。

 

「変な事言うなよ、欲しくなったらいつでも言いな。おまえレオには変えられないんだからよ」


 少し小首を傾げる仕草をすると、またフェイスガードを下ろしゆっくり歩き始める。


 そのまましばらく歩きながら、茂みに向かってピュンと小石を投げ込んでは、大型犬くらいはある一角兎ホーンラビットを仕留めて空間収容イベントリにしまうことを繰り返し広場に出た。


 ここは九層の安全地帯セーフティーゾーンだ。


「ちょっと待って。ここでしばらく休も」


 そう言って平たい岩に腰を下ろした。

 

――――ショーカン目線です。


 怯えられた――これは社会人として致命的だ。

 まして守られるべき存在の少女にだ。これは言い訳も存在しないし、大人の事情やこちらの事情なんてもってのほか――誰がなんと言っても、俺がそれを許さない。


「すまなかった……」


 土下座しても激おこプンプンして、どんどん先に行くずぶ濡れのレオをオロオロしながら追いかける。


 ぬ?! 怪しい気配!?


 その瞬間に投擲するとツノの生えた変な兎が皮肉に変わり、その都度空間収容イベントリに仕舞い込む。


 すると「さっきのアレ、もっと出せるの?」

 と回復水のことを聞いて来た。

 

 空間収容イベントリの在庫には、あと820リットル残っている。

 さっきのを、4、5回はできる計算だ。


「さっきのを4、5回はできるけど?」


「あんだって……?!」


 乙女にあるまじき表情でレオは見返してきた。

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