第19話 リビングアーマー罵倒される

 そのままレオの肩を固定して、胸部の鎧に顔を近づけた。


 ブシャ――ッと回復水が噴き出す。


「んがっ!?」


 女子にあるまじき悲鳴が上がって、濡れ鼠になったレオがそこにいた。


――――レオ目線です。


 魔力枯れを起こしてボォっとしてた。

 皮袋の水筒に残された水はわずかだったから、唇を湿らす程度しか水分をとっていない。

 そこへ危険地帯ホットスポットを抜けるために全力疾走したから、軽い脱水症状を起こしていた。 


「レオ、すまんっ」


悪霊騎士リビングアーマーに捕まると両肩をホールドされる。

 

 油断していた。

 顔があり言葉を交わせるから、つい人間と勘違いしてしまってたけどショーカンは魔物だ。

 いつ本能が暴走して殺されてもおかしくなかったのに。

 

 身長差でちょうど目の前に悪霊騎士リビングアーマーの胸がある。そのアーマーが少し持ち上がったかと思うと、ブシャ――ッと生暖かい何かが噴き出され目の前が真っ白になった。


「んがっ!?」


 目と言わず鼻と言わず口の中にも、その生暖かい液体が入り込み咳き込んだ。


「ゲホッ、離せっ、離せぇぇっ」


 必死に身をよじって悪霊騎士リビングアーマーを突き離した。後ずさったのは私の方だけど、そのまま小走りに距離を取る。


「何すんだバカッ、バカ――ッ」


 いきなり襲われたからショックで体が震える。


「すまん、レオ……俺は」

「近づくなっ、化け物っ」


 足元の小石を拾っては投げつける。カンカンッと鋼が石を弾く甲高い音が響いた。


「レオッ落ち着けっ、落ち着けって」

「寄るなって言ってるんだッ。それ以上近づいたら死んでやる」

 とタガーを引き抜き首筋にあてる。

 

 これは一つの賭けだ。

 もしコイツが人の心を残していたら、私の言うことを聞いてくれる。だが、魔物ならば嬉々として殺しに来るだろう。

 さっきのが本能の暴走なら、どのみち殺される。

 なら、前者に賭けて距離を取った方が良い。


 魔物に堕ちて襲ってきたなら、たとえそれがわずかな時間であったとしても逃げる時間を稼ぐことができる。

 言葉とは裏腹に、それは数秒でも生き延びるんだという私の決死の言葉だった。


「すまない……。これ以上は近づかないから、その物騒な物をしまってくれ」

 そう言ってまた死霊騎士リビングアーマーは土下座する。


「水をやりたかっただけなんだ。だが加減ができなかった」

 としょんぼりとしてる。


「わかるもんか、魔物は魔物だ。それ以上近づくな」


 そうか……すまなかった、そう言ってそのまま死霊騎士リビングアーマーは土下座し続けた。

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