第16話 バフがかかった先は?

 ミノタウルスは肉や毛皮や装備を残して消え、ショーカンの空間収容イベントリに収納された。


――――引き継ぎレオ目線です。


 私は何かがサラサラと抜けていく気がして、しゃがみ込んでいた。

 目がチカチカしてきつくまぶたを閉じていたけれど、ガチャリガチャリと近づく鎧の音でショーカンリビングアーマーは無事で、私を気遣って近づいて来たのがわかった。

 

 良かった、これで私も生き延びることができる。

 

「な、なぁ、大丈夫か?」


 薄く目を開けると少しオロオロしながらフェイスガードを上げた彼が、さっきと変わらないサファイア色の優しい目で見ている。


「ちょっと気持ち悪くなっただけ」と言って、立ちあがろうとしてよろけてしまう。

 なぜかガァン――ッとショックを受けながら支えてくれた。


「……? 少し休めば治ると思うから……」


 そう言って目を閉じるけど、瞼の裏に光りがチカチカして蛍のように飛び交っている。

 あ――ダメだ、これは。

 魔力枯れを起こしたらしい。


 この手の話しは元女性冒険者から聞いたことがある。

 命の危機に晒されたとき本能的にバフ強化魔法が発動することがある。

『火事場の馬鹿力』ってやつ。

 それが女性は、自分以外へ発揮してしまう――と。

 

『他者を強化して守ってもらうの。子供を守らなきゃいけない女性ならではの奇跡よ』

 

 と教えてくれたのは肉屋の女将さん。

 彼女も元Dクラス冒険者で、どこの部位が美味しいか解体するうちに経験を積み、旦那さんと貯めたお金で肉屋を開いたそうだ。


 ちなみに旦那さんとも同じパーティーで、魔物に襲われたとき彼女のことを守り抜いたその背中に惚れたそうだ。


『その時ね。私、この人を死なせちゃいけないって思ったんだわ。そしたらなぜか強化魔法バフが発動してね』


 とここまで語って急に声を落として


『今から思えば失敗したんだわ。あんなになるとは思わなかったからね』


 とこっそり指差す先に、オークみたいにガタイの良い旦那さんが黙々と精肉の作業をしている。


『ま、今では三匹の可愛い子豚ちゃんがついてきたから、良かったけどね』


 と笑う後ろで小さな子供たちが遊んでいる。


『ごちそうさま』

『胸焼けするわよね?』


 と笑いあったのを思い出した。

 きっとこれはそういう事なんだろう。


「す、すまなかったぁ」


 と目の前でなぜか土下座する死霊騎士コイツに発揮したとは思えないけれど。

  

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