第5話 リビングアーマーの奇行

『レベルが上がりました』

 

 頭の中に変なアナウンスが流れると、全身がゾワリとして力が溢れてくる。


 これって? そしてここって?

 ひょっとして異世界?


――――レオ目線です。


 物陰から出てきた死霊騎士リビングアーマーは、しばらく辺りを見回すと自分の体を見回し始めた。


 やがてしばらくこちらを見ていたが、おもむろに両手をあげた。

 暗いダンジョンの中でガシャリと鎧が鳴る。


 殺される!?

 弾けるように飛び退いて悲鳴をあげた。


「来ないでっ! 来ないでっ」


 なぜか慌てる死霊騎士リビングアーマー

 だが、そのあと私の最悪はさらに更新される。


 死霊騎士リビングアーマーに加えて、後ろからオークが出て来たんだ。


「さ、最悪……」


 震えながらオークを見る。オークは脅威度レベル7。

 冒険者はAからFまで色分けされていて、十年やってやっとDランクにたどり着けるのが一般的だ。

 そのDランクが7人がかりでやっと仕留めるクラスが脅威度7。

 

 もっとも層の厚いクラスのEランクパーティーなら、十四、五人でも全滅するレベルだ。


「プギャァァ――ッ」


 魔物は自分以外の魔物も捕食する。

 その魔素を取り込み進化してまた強力になる。それだからか、先に目についた死霊騎士リビングアーマーへ襲いかかって行った。

 

 あれからすれば、私なんか後から食べるデザートみたいなものだったろう。

 

 死霊騎士リビングアーマーに何度も棍棒を叩きつける。

 たが、死霊騎士リビングアーマーは、わざと数発殴らせておいて、棍棒をもつ手を掴むと殴りつけた。


「ピゲェ――っ」


 巨大なオークが悲鳴を上げながら転がっていく。しばらくピクピクしていたが、やがて静かになった。


「え?」


 オークは魔素を撒き散らしながら、風船がしぼむように消えていく。後には赤黒い魔石と、肉をドロップして消えた。


 ダンジョンではこんな不思議なことが起こる。

 倒された魔獣は、魔石と肉を残して頭と内臓と骨が消えてしまう。

 ダンジョンが魔獣を再生する時に肉以外を再利用するためだとか、肉を残すことで人間を誘き寄せるためだとか言われるけれど、詳しいことはわからないらしい。


「あ……ああ」


 かねてなら残された魔石と肉を回収して、肉に防腐用の薬草を塗り込むのがポーターの役目だが、今はそんな場合じゃなかった。


 ガチャリと死霊騎士リビングアーマーがこちらを向く。


「ひぃ……」

 こぼれ出る悲鳴を両手でふさぎ止める。

 刺激しちゃいけない、刺激しては錯乱するかも知れない。


 死霊騎士リビングアーマーはゆっくりと近づいてきて――そして深々と頭を下げた。


 なんで……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る