第4話 ひょっとして異世界?

 目の前には涙目の女の子、その背景うしろに洞窟。


 なんですか? これ?


 とりあえず、じっと手を見る。

 鉄製の前腕よろい(ガントレットっての?)なんだが。


「ぬ?」


 肩から両腕を見ると、アメフトのショルダーパットのような金属鎧に、腹部は屈折しやすい蛇腹状じゃばらじょうの波板。

 腿から足元まで、ダンボールの断面のような波打つ金属で覆われている。

 肘当ひじあてと膝当ひざあても金属だ。頭部は鉄兜と鉄仮面フェイスガードおおわれている。


 これフルプレートなんじゃね? カッケぇ―― って言ってる場合か!


 これって俺氏、頭を打ったか? 夢か幻想まぼろしを見ている?

 

 改めて体を見回すが、全く金属の鎧で覆われているようにしか思えない。

 

 目の前には怯え果てた少女。

 そして俺は全身鎧フルプレートのおっさん――事案よね?


 よし、落ち着かせよう。その前に落ち着け俺氏。


 両手をあげて降参のポーズを取ってみる。

 プレートの擦れ合うガチャリと音がして、彼女は弾けるように飛び退いた。

 

「来ないでっ! 来ないでっ」


 やめてっ、事案になるからっ。

 ボクは悪いおじさんじゃないよっ……!? って事案だよね。


 どぉする? と焦る俺の背後からグルル――ッと肉食獣の唸り声が聞こえた。


 なんだよ? 少女よ、その怯えた目は?

 視線は俺の後ろへ向いている。


「さ、最悪……」


 と震える彼女の視線を追って振り向くと、豚が棍棒を手に立ってた。

 豚が立ってる?


 豚って立つと二メートル超すのね……? なんて思っていると。


「プギャァァ――ッ」


 そいつは豚みたいな(豚だけど)絶叫を上げながら、襲いかかってきた。

 手にした棍棒を力任せに振り下ろして来る。


 やられる?!

 思わず手をクロスして目をつぶった。


 ガンッ、と酷い衝撃が。

 あれ? ちっとも痛くない。


 そうしてる間にも、豚野郎は(豚だけど)ガンガンッと手にした棍棒を叩きつけて来る。

 いい加減、腹が立ってきた。


 こちらは無抵抗だぞ? それを凶器で殴りやがって。


 思わず、豚野郎の振り上げた手(前足?)を掴んだ。


「プギェッ!?」


 何がプギェ? だ、この豚野郎っ(豚だけど)


 掴んだ手と反対の右腕で思い切り殴りつける。

 

「ピゲェ――っ」


 悲鳴を上げながら転がって、しばらくピクピクしていたがやがて静かになった。


「あれ?」


 そのまま風船がしぼむように消える豚。


『レベルが上がりました』

 

 頭の中に変なアナウンスが流れると、全身がゾワリとして力が溢れてくる。


 これって? そしてここって?

 ひょっとして異世界?

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