第2話 地獄に死霊騎士

 遠ざかるブーツの音を聞きながら、身をよじって麻袋を抱えた。

 痛みが徐々におさまってくると恐怖が襲って来る。


「くそっ」


 腰に巻いたポーチを確かめてみると。

 良かった、銀貨四枚もした回復薬ポーションの瓶は壊れていない。

 

 銀貨四枚といえば独り身なら一ヶ月の食費にはなる。

 それでも迷宮ダンジョンでは怪我一つで詰むから、新人は無理してでも装備する。

 怪我しても薬がある、そう思うと少し希望が湧いてくるけど、あたりを見回すと洞窟――以上。


 泣きたくなるくらいに薄暗くて静かで孤独だ。


「十層の地図の複写コピーは……」


 わざと声を出しながら、上着のえりをさいて複写コピーした大ネズミのなめし革を取り出す。

 

 冒険者ギルドで銀貨十枚で販売されているそれは、迷宮を抜ける道だけでなく、魔獣ランクや出現ポイント、罠のある場所が書き込まれている。


 道案内ナビゲーターの役割も担当する運び屋ポーターは、迷宮攻略ダンジョンアタックの前にパーティから預けられ、暗唱できるほど頭の中に叩き込むと、パーティーに返却する習いとなっている。

 

 それでもミスは起こるから、複写コピーを作っておくのは常識だった。


 暗闇でもわかるように、針で空けられた穴を手触りで追っていく。

 現在地は第十層の安全地帯セーフティーで間違いない。


「ここから出て右……次の三股を左へ」


 来た時と逆になるから、慎重に復習する。


 地図に✖️が彫られている。

 危険地帯ホットスポット。ここに高価値の素材を落とす魔物がいる。

 

 オークだ。

 私を追放した銀の龍パーティーが敵わなくて、この安全地帯セーフティーゾーンまで逃げてきたヤツだ。


「最悪……」


 熟練のパーティーならなんとかなる。

 だが私のような新人ルーキーでは無理だ。たがそこを抜けなければ、地上へは戻れない。


「干し肉をおとりに抜けるしかないか――」


 だが、ラッキーですり抜けたとしても次の階層にも危険地帯ホットスポットはある。


「クソが……」


 と泣き言が口をついて出た時、ダンジョンが蠕動せんどうした。

 それは安全地帯セーフティーゾーンが壊れる前兆――。


「なんなんだよ?! クソったれ」


 少しでも地上へと駆け出した。

 もう、死ぬ時は死ぬ。どうにでもなれ、とやけっぱちだった。


 目の前に魔物が現れる前兆の虹彩が広がっていく。


 それがおさまると物陰から黒い人影が姿を現した。


死霊騎士リビングアーマー……?」


 それは全身鎧フルプレート悪霊騎士リビングアーマー、脅威度10の最悪のモンスター。


「神様ぁ……」


 と神に祈る以外、私に何ができると言うのだろう。

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