運び屋のリビングアーマー

カダフィ

第1話 迷宮という名の地獄で

 暗くて蒸し暑くて空気が悪い。

 そんなダンジョンをいずり、獲物を運ぶのが運び屋ポーターの役目だ。

 食事も乾燥させたスープをお湯でもどし、カビの生えた黒パンなど、当たり前。

 そんな扱いが運び屋ポーターだ。


 使えるかどうかもわからない魔法の原資エネルギーとなる魔素を蓄える修行期間しゅぎょうきかんで、その代償としての雑用ざつよう係。

 それが運び屋ポーターになる、ならざるを得ないクソみたいな理由だった。


 私はレオ。

 15歳から冒険者登録をすませ、運び屋ポーターとしてダンジョンに潜りはじめて、今日で三回目の新米冒険者。

 吊り目がちなせいで話したこともない人から生意気だと言われ、前髪を伸ばして隠すと陰気なヤツだと言われる底辺女子。


 マシなところと言えば、サファイアのように青い目と、年齢のわりに背が高いくらいだ。

 栗毛色の髪を男の子のようにばっさり切って、布を巻いて被っている鉢金メットが似合いすぎて、ますます女の子高カーストから遠ざかっている。

 

 背の丈は百六十センチくらい。

 だから十八才と歳を誤魔化して、今回ポーターに雇われることができた。

 

 三年前に両親を亡くした私は、生きるために冒険者となった。

 私には病を患う弟と飼っている猫がいる。そしていつも腹をすかして、ドブさらいのような小銭稼ぎで糊口をしのいでいた。


 だから少しでも、弟に精のつく栄養のあるものを食わせてやりたい、と思って報酬の良い仕事を受けたのに……。

 

 全てのものに唾を吐きかけたい――それが今の私の心情だった。


「なにソッポむいてんだよ?」

 

 こいつが今の私をイラつかせている元凶、ビル・スメルゲイド。貴族の三男だとかで、最初は貴族の割に気さくな好男子と好印象だったのに結局クソだった。


「別に……ウッセイんだよ」


 どうせ最期になるのなら、このクソ野郎にツバを吐きかけてやろうか、と黙り込んでいる。


「いいか? レオ。おまえは魔石を誤魔化した――おまえの背嚢バックパックに入ってたぞ」


「嘘だ!」

 私の必死の反論も強烈な平手打ちを喰らって、終わってしまう。


「おまえは追放だ! せめてもの情けで――」


 そう言って手にした麻袋を私に放り投げた。

「水と食糧を置いていってやる。ラッキーだな?」


 ククク……と嘲笑すると、取り巻きのパーティーの連中も笑っている。

 クソだ、世の中クソだらけだ。


 遠ざかるブーツの音を聞きながら、自分はそのクソにすら踏みつけられて死ぬのか、と思うと悔し涙が溢れた。


 ――――不遇パートですが、サクサク進めます。しばらくお待ちください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る