7.ハリウッド映画オーディション

 先に断っておくと、これは受かった訳ではないのを明記しておく。

 いつだったか、ラフォーレ原宿で予約さえすれば書類選考なしで全員プロデューサーさんに観て貰えるというオーディションがあった。

 受かるとは思わなかったが、今でも俳優志望という訳でなく演劇ワークショップに通うように、私はなにかに挑戦することが大好きだった。


 数日かけてオーディションが行われる。当然、希望者は何百人かになるだろう。

 そこで私は、また秘技を使った。『必殺奥義・取り敢えず特徴で覚えて貰おう』である。

 しかし人数は何百人である。ちょっとやそっとじゃ印象に残らない。

 私の取った手段はこうだった。片目にパープルのカラコンを入れ、片目にブルーのカラコンを入れる。アイシャドウも、片目ずつそれぞれの色のシャドウを塗った。

 やべぇ奴の爆誕である。でもその分、言葉遣いや挨拶はこれでもかと丁寧に印象よくおこなった。


 女優と歌手の同時募集だったので、私は女優と歌手は別々にオーディションを受けなくてはならないと勘違いして、二日間にわたって予約を入れていた。

 だが実際は、ひと枠でよかったらしい。断ることも出来たが、せっかくの機会なので次の日も行った。

 すると必殺技の成果か、前日のカジュアルな服装とは違いスーツをビシッと着こなしネクタイまで締めている私にプロデューサーさんは「昨日とは雰囲気が違いますね」と覚えてくださっていた。

 もうそれだけで、天にも昇る気持ちだったのを覚えている。


 ちなみに審査内容は、質疑応答、歌唱のふたつだけだった。演技審査はなし。

「日本人であることを誇りに思いますか?」

「日本のどんなところが好きですか?」

「では反対に、日本のどんなところが嫌いですか?」

 これは、個人のアイデンティティや頭の回転の速さを観ているのだろう。幸い私はすぐに答えられた。

 皆さんならどう答えるか、考えてみるのも面白いかもしれない。


 歌唱は、課題曲があった。だがキーが高くて上は声が出ない。そこで私は、ワンオクターブ下げて地を這うような声で歌った。

 実を言うと、これも実用的だが作戦だ。『高い声が出ていなかったな』というマイナスイメージを、『オクターブ下げて歌った面白れー女が居たな』というプラスイメージに書き換えてしまうのである。

 二日目歌って「自分では何点ですか?」というお決まりの質問をされたとき、前日は六十五点だったので「六十七点」と答えると、その細かい刻みが面白かったのかひと笑い取れた。

 とても満足だった(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る