3.演劇部

 高校には演劇部がなかったが、これも演劇に熱心な教師が居たため、学園祭の流れから発足に至った。

 演目は『李香蘭りこうらん

 今やっているかどうか分からないが、某劇団四季でやっていたストーリーをベースに、私がオリジナルキャラクターやエピソードを膨らませて、脚本を書かせて貰った。モノカキあるあるの、『学祭の台本書きがち』案件である。

 明かりや音きっかけも書き込んで、裁判のシーンでは会場全体から罵声が上がるように、照明さんやピンスポさんや音響さんにも短い台詞を割り振った。

 余談ではあるが、この脚本は卒業後も残って後輩たちが演じていると聞いて、マジかよと冷や汗をかいたものだった。

 教師の差し金だな。使用料払え。まあ、これは冗談だが。


 その演目が評判だったようで、ギリギリだったにも関わらず、地区の高校生演劇大会にエキシビションとして招待された。

 そこで印象的だったことを、いくつか記そうと思う。


 人間は何処かから呼ばれたら、キョロキョロと辺りを見回すもの、という固定概念がある。

 あるひとがこれを舞台上でやったら、ディレクションが入った。

「呼ばれて、それが右からか左からか分からないことってある?」である。

 確かに日常では、声のした方に振り向くものだ。

 そのひとは高校生にしてプロの劇団員をやっている猛者だったが、教師のこのディレクションに目から鱗だったのを覚えている。


 私は男装の軍人役だったので、その頃テレビで放映していた宝塚のメイクを参考に、ノーズシャドウを入れてバリバリにメイクした。

 発声なども宝塚を参考にし、自分なりに『女性』ではなく『男性』に近い演技を心がけた。

(実際に役も『僕』と言っていた。今流行りのボクっ娘ではなく、正味の『僕』である)


 のちに笑い話になるのだが、このとき初めてメイクに触れたので、二十代の初め頃までアイラインは二重幅を全部塗りつぶしていた。ピンスポにも負けないッ! 狂気の沙汰である(笑)

 舞台で初めてメイクを学ぶひとは、舞台メイクは舞台用のもの、と覚えておいた方がいいだろう。


 そして、思わぬ『癖』を指摘された。

「手、どうしたの?」

「え? なにもないですけど」

 なんと私は台詞を言っている最中、ずっと親指と人差し指をすり合わせているというではないか。全く意識していなかったので、とても驚き、指摘に感謝した。

 

 今でもドラマや映画を観る際は職業病とでも言おうか、こと細かく観察してしまうのだが、極まれにこういう『癖』を直して貰えないまま演じている方を散見する。

 気になるひとは、自分に癖がないかどうか、早い内に周囲に訊いて矯正するのもありかもしれない。


 あと余談だが、舞台には舞台の、ドラマにはドラマの、映画には映画の、流儀がある。

 えらそうに聞こえるかもしれないが私がひとつ気が付いたのは、映画では自分がアップで決め台詞を言っているときには『瞬きをしない』というものだ。

 舞台役者さんが映画出演をした際、大画面にドアップでバチッ! と瞬きをしたときに、「そう言えば他の役者さんは瞬きをしなかったな」と気になった。

 映画に挑戦したいと思っているひとは、覚えていると役に立ったり立たなかったりするかもしれない。

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