第4話

 その頃、その神聖なる土地では"神"が盗まれたと大騒ぎになっていました。

"神"は成人するまでその土地で大切に育てられ成人したら神への生贄として捧げられます。その命はまた"神"として生まれ変わり、"神"としての生を繰り返すのです。

"神"とはそういう物です。

使い捨ての生まれ変わりです。

"神"の在処を知っているのは長老と両親、そして神のみです。

本人は成人した時に初めて自分が"神"であると知らされ、そのまま生贄になります。

"神"は転生を重ねるにつれて、子を産む親から疎まれる存在になっていきました。

この土地の人間の寿命は200年。せっかく大切に育てても成人したら死ぬ存在、短いと分かっている命を授かるなら長らえる命が欲しい。

頼むからうちには来ないでくれ。

いつしかそんな考えと共に産まれてくる命となったのでした。

それでも神聖な土地の神への捧げ物として、"神"は特に守るべき神聖な存在である必要がありました。

だから"神"の在処を知る者は長老と両親に限られたのです。

そして外部の者を侵略者として痛めつけることで、"神"は守るべき特別な存在なのだという思想を村人に植え付けていました。


 儀式は"神"が成人した日の夜、つまり16歳の誕生日の夜に行われるしきたりでした。

"神"は気まぐれで転生するため何年に一度という決まりはなく、村を壊滅させるほどの豪雨をもって儀式の開始が告げられます。


「"神"はどこだ!"神"をどこへ隠した!生贄がいなければ儀式が出来ないじゃないか!」

「雷だ!神がお怒りになっている!早く"神"を差し出せ!早くしろ!」

「川が氾濫するぞ!!!早く生贄を用意しろ!!!!」

「早く生贄を差し出さないと家が壊れるぞ!」

「まさか盗まれたのか?!」

「どこの家だ!正直に名乗り上げろ!」

「"神"を盗まれると不用意な!!!」

「いつ誰に盗まれた!!」

「まさかこの前の侵入者かぁぁ!」

「ふざけるな!早く探し出せ!」

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