第3話

 その地域で"たた"が神聖なものとされたのはりたが生まれる200年前、彼女のおばあちゃんがまだ少女だった頃のことです。


彼女の家はとても厳しく、「外の世界は危ないから女は外に出るな。」と外出を禁じていました。

そんな彼女の楽しみは本を読む事でした。

毎日毎日本を読み漁っては遠く離れた地へ想いを馳せました。

そしてたまに窮屈しのぎにこっそり森へ出かけ、ほんの一時を秘密基地で過ごしていました。


 ある日迷い人がその地に足を踏み入れました。

古くからその地域の守護者として生きてきた彼らは余所者の侵入を決して許しませんでした。

侵入者が二度とこの土地に足を踏み入れることがないよう拷問して彼らの足を切り落とし、追い払いました。

迷い人はなんとかその土地から這い出すも、もう長くはもちそうにありませんでした。

彼女はそんな残虐な光景を何度か見る度に違和感を覚えるようになり、次回こそは助けようと心に決めていました。

誰にもばれないように彼の残していった赤い線を辿り、森の中、村の境界付近で虫の息の彼を見つけました。

このままでは血の匂いを嗅ぎつけた野生動物に生きたまま食い殺されてしまう。

そうでなくても放っておいたら死んでしまう。

そう思った彼女は森の中にある秘密基地まで彼を連れて行き、それから数日間家にも帰らずに彼の看病を続けました。

その甲斐あって、彼はなんとか一命を取り留めました。

それから数ヶ月の間、彼女は動けない彼に自分のご飯をこっそり届ける毎日を送りました。

数ヶ月経ち彼が動けるようになった頃、彼は「俺の故郷に一緒に帰らないか?」と結婚を申し出ました。

彼は見ず知らずの自分を助けてくれた命の恩人に惚れ、彼女もまた毎日顔を合わせるうちに彼に好意を抱くようになっていたのです。

彼女は「外の世界を見させてくれるなら喜んで」とその申し出を受け入れました。

2人で身の上話をしている間に彼女は今日が自分の誕生日である事を思い出し、「最高の誕生日プレゼント!今まで貰った中で1番嬉しい!」と晴れやかな笑顔で彼に伝えました。

彼はその時、彼女の笑顔を初めて目にしました。

2人は胸の高なりを感じ、これからの行く末に想いを馳せるのでした。

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