第2話
そうして時は過ぎ、大晦日。私は初めての内々定をゲットした。
夜に、お祝いのショートケーキを食べた。お地蔵さんは私のそばにずっと寄り添ってくれていた。おめでとう、と言ってくれてるみたいで、私は恥ずかしながら泣いてしまった。もちろん嬉し泣きだ。
その日はぐっすりと眠った。久しぶりの安眠だった。
翌日。目を覚ますと、部屋からお地蔵さんがいなくなっていた。
家中を探した。だけど見つからなかった。
私は家を飛び出した。走りながら彼の姿を探した。初めて彼を見た電柱にも行った。そこにもいなかった。町中を走り回った。それでも、彼は見つからない……。
気づけば、電柱のところへ戻ってきていた。
「……どこ、行っちゃったの」
私は電柱のそばでしゃがみ込み、両膝に顔をうずめた。
一か月にも満たない時間だったけど、彼との思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
私が一方的に話して、彼が頷いたり首を振ったりする。それだけだったけど、至福の時間だった。誰かに話を聞いてもらえることが、こんなにも嬉しいなんて。就活でやさぐれていた私の心を、彼が癒してくれた。彼がいなくなって初めて、私は彼に支えられていたことを知った。
「大丈夫?」
顔を上げると、一人の男の子が心配げにこちらを見ていた。
私は、大丈夫、とだけ返そうとして、彼の首元にあるそれを見つけ、
「……心配しないで。私はもう大丈夫だから」
少年はにこりと笑って、身を翻すと、跳ねるようにして私の前から去っていった。
ちりーん、ちりーん、と、鈴の音を鳴らしながら。
お地蔵さんと鈴の音 まにゅあ @novel_no_bell
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