第5話 メイクアップ!

 と思ったのは間違いだった。香宮は横峯を諦めてなどいなかったのだ。

「横峯くん、可愛い……素敵……」

 アイシャドウを横峯のまぶたに乗せながら、香宮はうっとりと呟いた。

「あの〜、俺のメイクは」

「立花くんはちょっと待ってて」

 放置プレイかよ。もう覚悟は決まっているのでさっさと終わらせてほしい。

「横峯くんって可愛い顔してるから丸い目なのかと思いきや、意外と切れ長なんだよね……」

 ぶつぶつと横峯の顔を分析しながらメイクを進める香宮。横峯がぱくぱくと口を動かして俺に「助けてくれ」と救難信号を送ってくる。知るか。そのまま顔触られてろよ。俺だってそんなに長時間横峯の顔に触れたことないのに。欲情と嫉妬と苛立ちがないまぜになった心境になってよそを向く。

「そうそう、そうやって目、開けてて……」

 でも気になってちらちらと横峯の顔を見る。可愛い。いつも可愛いけど、ほぼ女子みたいな可愛さになっている。はぁ。いかん。目が離せなくなる。

「でぇ〜きた!」

 香宮が歓声を上げた。

「めっっっちゃ可愛い! 私って天才かも〜!」

 喜んでいる。見ると、楚々とした可愛さのメイドがこっちを見てきていた。

「どう??」

「あ、まぁ……可愛いと思う」

「歯切れ悪いな」

「だって俺は男のままでお前のこと……」

「なに、はっきり言って」

「可愛いって思ってるし……」

 にこにことする横峯。俺は照れで直視できなくなった。


「お披露目〜!」

 と言いながら、香宮は横峯を連れてほうぼうを周り、やっと俺のところに来た。

「濃くしないでほしい、あと」

「往生際が悪いわよ」

 がばりと前にかがまれ、まぶたにアイシャドウを塗りたくられる。

「な、なんか横峯のとは違くないか?」

「立花くんはねー、違うアプローチでいくから」

 にやにやしながら俺の顔に触れてくる香宮。嫌な予感しかしない。

「はい! 出来上がり」

 鏡を渡され、鏡面を覗くと、そこには一人の白ギャルがいた。

「!?!?」

「立花くんはこういうほうが映えるかなぁと思って〜!」

 また楽しそうに笑う香宮。横峯がこっちを見ている。

「……」

 親指を突き出してくる。ほんとかよぉ。

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