第3話 文化祭前のざわめき

 文化祭の時期が近づいてきた。美術部は展示用の作品を作る作業に追われていた。

「香宮、今どんな感じ?」

「どうもこうも、光の感じが難しいのよ……」

 真剣な表情でキャンバスに向かっていた香宮は、俺に訴えてきた。

「そうか……」

「立花くんはどうなの?」

「俺は手前の人物のポーズが決まらなくてな」

「へぇ、いいじゃない」

 香宮が俺のキャンバスを覗いてくる。

「こんなのどうお? こう」

 香宮がしゃなりとポーズを作る。

「いや〜、もっと自然なのがいい」

「じゃあ、こう」

 さらりと形を作る香宮。

「……いいね、それ」

「盗ってもらってかまわないわよ〜」

「いただくわ」

 さらっとデッサンを描き入れる。


「立花〜、軽音の練習終わったんだけど、一緒に帰らねぇ?」

 横峯が美術部に顔を出した。

「ああ、いいぜ。もうすぐで終わる」

「あらぁ、横峯くんじゃない!」

 香宮がきらきらした瞳で横峯のそばにるんるんと駆け寄った。

「私も一緒に帰りたい」

「や、俺達これから寄るところあるから。悪いな、香宮」

 さらっと断る横峯。

「え〜そうなんだ〜」

 あからさまに残念そうな香宮。

「絵、進んでるの?」

 去り際に横峯が香宮に言った。

「うん。文化祭のとき、横峯くんに見てもらいたいな」

「うん、見に行くよ。立花のも見に行きたいし」


「香宮、お前に迫ってる時より、絵を描いてる時の方がずっと自立した人間に見えるよ」

「それ、香宮に言ってよ」

 う〜と眉を寄せながら横峯が言った。

「いや、傷つかれても嫌だし」

「そんなんで傷つく玉かぁ?」

「うわ、それはさすがに可愛そうだよ、相手は女子だぜ」

「女子に興味ないし」

「ばっさりいくねぇ……」

「っていうか、俺は本当の意味じゃ立花にしか興味ないの」

 いつもどおり愛がでかい。それなのに俺達はまだキス止まりである。自分でもどうかと思うが、早く次に行きたい。

「寄るところって言ってたよな」

「方便だけどね〜」

「……今日、母親家にいなくてさ。うち、来る? そしたら方便にならないだろ」

「……行く」

 じっと俺を見上げる横峯。くそ、可愛い。俺はくっと目頭を押さえて上を向いた。

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