第2話 @美術室

 俺は2年から美術部に所属しているのだが、いかんせん部員が少ない。今日も部室には二人しかいなかった。よりによって香宮である。

「なぁんだ、立花くんか」

「そんな残念がるなよ」

「横峯くんがよかったなー」

「奴は軽音楽部だろ。そっち所属したらよかったじゃねぇか」

「う〜ん、でもあたし、絵が好きなの」

 そこは曲げないのか。香宮の印象を上方修正しながら、近くの椅子に座る。

「何描いてるんだ?」

「水面よ」

 香宮がぐいっとキャンバスを俺の方に向けた。

「綺麗じゃないか」

 普段の香宮の態度からは想像できない繊細さで、プールの水面が描かれていた。でもどこか溌剌とした筆致で、香宮らしさを想起させる。

「立花くんって素直に褒めるよね」

 そう香宮が俺を見て言った。

「そうかな」

「横峯くんも、立花くんのそういうところが好きで一緒にいるのかも」

 何かを悟られたかと思って香宮の横顔を見たが、別に他意のなさそうな、ぽつりとした言い方だった。まぁ別にばれてもいいのだが。いや、いいか? 香宮に分かられたらめんどくさそうではある。

「私の思い通りにならないのは横峯くんだけだわ」

「……そうなのか」

「だから余計に好きになってほしいって思う。私に振り向かせたいの」

「……悪いけど、横峯には効かないと思うな」

「どうして?」

 純粋無垢な瞳が俺を射る。

「……さぁ、好きな奴でもいるんじゃないか?」

「あー、男の子同士の秘密ってやつね。誰が好きかは教えてくんないんでしょ。なるほどな〜、術が効かないくらいに好きな人かぁ」

 香宮が足をぶらぶらさせた。

「いいなぁその人、そんなに好きになってもらえて」

 なんとなく恥ずかしくなってきて、俺は俺の絵に集中するふりをした。

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