香る君

はる

第1話 ライバル登場

「横峯くん」

 斜め前の席の横峯に、香宮雫が声をかけた。

「あたしのこと、好き?」

「……友達として好き」

「ねぇどうして? どうして横峯くんにはかからないのかなぁ。どうしてだと思う? 立花くん」

 香宮が首をかしげてこっちを見てくる。

「……知らねぇよ」


 放課後の教室だった。高校2年になって同じクラスになった香宮雫という女子生徒は、なぜかいたく横峯のことを気に入ったらしく、何かと話しかけている。そこまではいい。いや、内心穏やかではないが。この女子生徒、なんと意思によって相手を言葉でコントロールすることができる能力持ちのようなのだ。そのことを、前放課後に俺達二人がうだうだしているところに打ち明けてきた。


「私、異能持ちなんだよね。横峯くんが私を好きになれるようにもできるよ」

 そう大見得を切って。そんな自信、俺も持ちたいよ。

「横峯くんは私を好きにな〜る」

 香宮は手をひらひらと横峯の頭の上で動かした。

「はい! かかった」

 きゃっきゃと歓声を上げる香宮。なんだか人生楽しそうでよかったな。それはそうと、横峯は困惑した表情をしていたし、俺は俺でまた異能者が現れたことに「やっぱりな」という気がしていた。二度あることは三度あるのだ。

「どう? 横峯くん、あたしのこと好きでしょ」

「いや……」

 その時の香宮の驚いた顔はなかった。

「……えーーーーー!?!? どうしてかかってないの!?!?」

「いや……そもそも好きじゃないし」

「ひどおいなんでそんなこと言うの? なんでも私の思い通りになってきたのに、今まで……」

 泣きべそをかく香宮。今までなんでも思い通りになってきたとは、羨ましい人生だな。

「思い通りになってきたほうが珍しいことだよ」

 と俺が声をかけると、香宮はきっと俺を見た。

「私の能力さえあればなんでも可能なのよっ」

 なんとなく息苦しい世界である。

「へぇ、そうか」

「立花くんは関係ないでしょ! もう、どうしてなの!?」

 わぁわぁ言いながら、その日は香宮は「もう帰るっ!」っと叫んで帰っていった。嵐のような人間である。

「なんだったんだ……?」

 横峯が疲弊した表情で言った。

「かかってないのか?」

 俺がよそを向きながら聞くと、横峯もまたそっぽを向きながら言った。

「当たり前じゃん」

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