第8話
それからしばらくして植親は側室を持った。それを寂啓は意外に思ったが、それは北の方たっての願いであったという。
当初、双子の障りが分かった時、北の方は嘆き悲しみ、一時は命さえ危ういほど衰弱してしまった。
そこから持ち直すことが出来たのには、一つ、親の願い通りに健やかに育っていた嫡子、弥太郎の存在も大きく関与したと思われた。少なくとも、一人は健やかに育っているのだから。
事実、弥太郎は体も丈夫で、大変に利発であった。そして、弥太郎はそんな母の嘆きを汲んでか、殊更に弟二人によく教示した。彼らにも出来ることを探し、彼らなりの方法で学んで行けるよう、根気よく接していた。そして、弟たちも兄に応えようと懸命に学んだ。幸いであったのは、二人が大変に努力家であり、また、兄によく似た利発さを持っていたことである。
そんな子供達は当然、母を慕い、母に心労をかけまいと懸命だった。母もまた、子らを愛しく思い、その思いもまた、彼女をこの世に繋ぎ止めた要因の一つだった。
だが、危険な状態から脱したとはいえ、伏せがちなのは変わらず、その身体を思えばもう子供は望まぬ方が良いとされた。
しかし、双子に障りがあるとなればその支えとなるべく、また、それをも背負う嫡男の支えとなる血の繋がった男子がもう一人は欲しい。
北の方はそう願ったのだった。その想いに植親が応え、また、それに応える女性との出会いがあった。
そうして、皆の願い通り、健やかな男子が、側室の子として生まれた。側室となった女も、北の方と植親をよく慕い、二名増えた家族の結束はより強くなっていった。
それから、七年ほどは穏やかな時が流れ、子等は親の心配をよそにすくすくと育っていた。
側室の子、与四郎は大変なやんちゃ者で庭の木という木を猿のように飛び回り、庭石の間を駆けまわって兄達をハラハラさせていた。
件の双子は十を超えて、名を弥次郎、弥三郎と改め、屋形内で勉学に励んでいた。その頭の良さは教育係も舌を巻くほどであるという。
嫡男は名を弥太郎と改め、年も十五となり、近く元服を控えていた。
そんな、折だった。
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