三十三話 準備

「あー、いた! アレフ! ちょっとどういうつもりなのよ!」


 二階層に入ってすぐの所で寝転がって休憩しているアレフの元に、少し怒った様子のルディアが怒鳴り込んできた。


「え? どうしたの、急に?」


 突然の来訪者の登場にアレフは驚いて上半身を起こしたのだった。


「カールおじさんが戻ってきてからどれだけ経つと思ってるのよ! 全然バトルに出なくなっちゃったし、家にも帰ってないじゃない! あれから三ヶ月も経つのよ!

 こないだアレフが帰ってきたと思ったら、またふらっと居なくなっちゃうし……ランクも上げないし、二階層にいるってことは遺跡ダンジョンの攻略も進んでないってことでしょ? カールおじさんに聞いたらこの辺にいるだろうって言われたからちょっと文句を言いに来たのよ!」


 ルディアの言う通りアレフはカールが帰って来てからバトルに出ることはほぼ無くなった。また、この三ヶ月は最初の頃は別として、ほぼ家に帰ることも無く過ごしていたのだった。


「ああ、その事か。母さんも元気になったし、父さんも帰ってきたからバトルで稼ぐのは父さんに任せて俺は遺跡ダンジョンの攻略に専念しようかと思ってね」


 アレフは帰って来たカールと話をしたのだ。カールは自身の力を考えると遺跡ダンジョンの奥に辿り着くことは難しいと考えた。キングバジリスクすら倒せないカールでは無理だと。逆にアレフにはバトルに出る意味が殆ど無くなっていた。バトルに出ていたのはお金の為だけである。カールが戻ってきた今となっては稼ぐことはカールに任せ、遺跡ダンジョンの攻略に専念した方が良いと考えたのだ。


「いや、ならなんでこんなだだっ広い所・・・・・・にいるのよ! ってか、二階層には初めて来たけど、一階層と違ってこの辺りは全然木は生えてないのね。切り株だらけ・・・・・・……」


 ルディアはぐるりと辺りを見回してぼそりと呟いた。そう、この周囲一帯は見渡す限り切り株だらけで木は生えていなかったのだ。


「ああ、俺が全部切った・・・・・・・


「は……?」


 アレフの言ったことをまるで理解できないといった表

情でルディアは呆然としていた。


「いやな、十一階層は辺り一面が水で囲まれてるんだ。だから、イカダでもないと渡れないから木が欲しくてね。だからちょっとだけ切ったんだ。一階層じゃ他の人が迷惑するかもしれないから、二階層なら殆ど誰も来ないだろ?」


「まあそうだけど……ってちょっと・・・・ってどれだけ必要なのよ? これ、十本や二十本の話じゃないでしょ? ネックレスにもせいぜいそれくらいしか入らないだろうし……見た所それ・・だって一本しか……」


 アレフの首にかかっているネックレスをじっと見るルディアに気づいたアレフは、魔法陣の中からある物・・・を取り出した。


「知ってたか? 収納用の魔法陣の中にネックレスも収納出来るんだ」


 アレフはじゃらりと音を鳴らし、鷲掴みにした大量のネックレスをルディアの目の前に突き出した。その量に再度ルディアは絶句してしまう。


「どれだけミノタウロス倒したのよ……」


「ああ、ごめん、数は数えてないや」


「はあ……なんだかミノタウロスが可哀想に思えてきたわ……」


 ため息まじりにルディアがそう呟いてから、こう続けた。


「ち、ちなみに召喚士の指輪はどうしたの?」


「ああ、全部父さんにあげたよ。バトルで勝ち抜くには必要だろうし、俺にはこいつらがいるしね。それにどうやら十一階層以降で手に入る物で進化させられそうなんだ」


 そう言ってアレフは左手を掲げてルディアに指輪を見せたのだった。


「ま、ある程度の準備は出来たし明日から十一階層以降の攻略に専念かな」


「ねえ、なら久しぶりにヘスティアと一緒にご飯食べない? 明日からしばらく戻らないんでしょ?」


 ルディアの言葉にアレフは腕を組んで少し考え込んだ。


「まあ、そうだな……よし、そうしようか。明日から魚ばかりになるだろうから今日は肉がいいかなぁ……帰りがけに何か狩ってから帰るか」


 そして二人は街への帰路に着いたのだった。

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