三十四話 第三エリア
まだ日も昇らない時間にアレフは十一階層に転移して来た。カールの話を聞く限りこの広大な湖を渡るのは日が出ている間が良いとのことだった。
日が沈んだ後は大型の生き物が泳いでいる姿を見たことがあるとのこと。逆に日が出ている間は小型の生き物しか見たことがないとカールから聞いていた為、なるべく日の出ている間の移動時間を確保しようと早めに
「へぇ……あの声が言ってた封印ってこういう事か」
アレフは降りたってすぐに目の前のある岩に手を置いて呟いた。アレフが動かしたはずの岩である。魔法陣を塞いでいたあの岩、
「転移をすると同時に元の場所に戻るみたいだな。一度動かせば行き来し放題ってわけじゃないみたいだ」
アレフはそう呟いてから、早速イカダを作ろうと太い丸太を一本取り出してひょいとかつぎ上げた。
しかしその瞬間、ある考えを思いついたアレフはベンヌを召喚したのだった。
「ベンヌ、ちょっと見といてくれるか?」
その言葉に応えるようにベンヌが高く舞い上がったあと、アレフは丸太の側面をがしりと鷲掴みして丸太を思いっきりぶん投げる。
ゴォォォと丸太は空気を切り裂きながら、はるか空中へと消え去っていった。
しばらくするとベンヌが舞い降りて来た。だが、どうやら様子が少しおかしい。
「届かなかったか?」
しかしベンヌは首をひょこりと傾げた。
「じゃあ飛ばしすぎた……とか?」
その言葉にベンヌはバタバタと喜んでいる様子だった。どうやら飛ばしすぎて目標を超えてしまったようだった。
「ふむ、難しいな。まあ、もう一回やってみるか……」
その言葉と同時にベンヌが舞い上がり、それを見届けたアレフは再度同じように丸太を放り投げた。すぐに舞い降りて来たベンヌはとても喜んでいるようだった。
「成功か。よーし……今度は……」
次はアレフは先程と同様に丸太を一本、鷲掴みにして思いっきりぶん投げたる。その後即座にその丸太に飛び乗った。
「ふむ、いい感じだな……」
アレフの眼前には広大な湖が広がっている。
所々大きな影も見える。どうやら大型の魔物であろう。小さいイカダ程度なら簡単に壊せそうなくらいの大型の魔物のようだ。何度も壊されてもいいように大量の丸太を持ってきてはいるが、こうやって上空を超えてしまえばその心配も無用となる。
「お、見えてきた」
ものすごい勢いで空を飛ぶ丸太の上に立つアレフの視界に一つの島が入ってきた。どうやら目的の場所であろう。勢いもまだまだ十分あり、問題無く届きそうであった。
「よっと」
丸太が地面につく直前、ひょいとアレフは飛び降りた。と、その直後、ドォォンと丸太が地面に大きなクレーターを作ると同時に粉々になった。その脇にもう一つ大きなクレーターが存在していた。アレフが直前に投げた丸太が作り出したものであろう。
「お、近くに魔法陣もあるし予定より早く下に行けそうだ」
アレフはそのクレーターの先にある魔法陣の存在に気付いてそう呟いたのだった。
────────────────────
「え……少し早すぎない? まだ一日経ってないんだけど? どうやったらそんなに早く戻ってこれるのかしら」
魔法陣で転移し戻ってきたアレフに、そう声が掛けられる。その魔法陣は四重の輪で囲まれている。そう、アレフは十六階層まで辿り着き舞い戻ってきたのである。
「そうか?」
その声にアレフは首を傾げた。
「泳いで渡るにしても、なにか道具を使って渡るにしろ、島の近くはまだしも、島から離れれば巨大な魔物に襲われるはず。ボスは別として水中で戦えるような使い魔がいる訳でもないし、ここでおしまいだと思ってたんだけど」
「ふむ、なかなか物騒な場所だったんだな。まあ、聞いてたところでやめる訳もなかったんだが……」
淡々と語る声に対してアレフは腕を組んでそう答えた。
「でも、本当にどうやって……」
少し動揺しているかのような声の疑問にアレフは当たり前のごとく答えた。
「投げた丸太に乗って全部越えてきたよ」
「は……?」
「何なら見せようか?」
そう言ってアレフは太い丸太を一本取り出してブンブンと振り回したのだった。
「わ、わかったから止めて! 壊さないで!」
「遠慮なんかしなくていいのに……」
「と、ところで何か聞きたいことあるんじゃない……」
その言葉に思い出したかのようにアレフは手のひら大の大きさの実のような物を取り出した。
「ああ、そうそう……ボスが落とした
「それは進化の実よ。でも、よくあいつを倒せたわね。それを飛ぶ使い魔はベンヌだけ。ボスは空中を目にも止まらぬ早さで泳ぐフライングシャーク。勝ち目なんか無いはずだったんだけど……」
「とりあえずデュランをぶん投げて刺したら倒れたぞ」
そう言ってアレフは何かを投げる仕草を示した。
「そ、そう……ま、まあこれでヘルウルフもベンヌも進化出来るわ。その剣も進化条件は満たしたみたいだしやってみる?」
アレフはその言葉に腕を組んで首を少し傾げた。
「そうだな……やらない理由はないからな。まずはフューネルからかなぁ
これで一気に
そう呟いたアレフに対して否定の声が部屋に響いた。
「それはないわ」
「なんで言い切れるんだ?」
即座に返ってきた答えに対してアレフは尋ねた。
「理由はその実よ。
「逆に考えれば大量に与えれば
アレフはふと湧いた疑問を投げかける。
「そうねぇ……やった事もないから想像出来ないわね。ま、十とか二十とかでも
「ふむ……まあ、やってみればいいかな。じゃあとりあえずデュランから……」
そう言ってアレフは召喚士の指輪をコトリと置いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます