二十四話 村の跡
「さて、今日からはしっかりと探索するかな……」
転移の魔法陣で六階層に降り立ったアレフは肩をぐるぐると回しながら呟いた。
今まではミノタウロスを倒すことを優先していた為探索は後回しにしていたが、目的も達成したので本格的に探索をしようという訳だ。
昨日久しぶりにフォレストグリズリーの心臓をミューズに渡したので、少しは顔色が良くなったように見えたのは安心材料の一つだ。収納用のネックレスも手に入ったので、食料の問題と同時に持ち帰ることが出来る素材が増えたことは大きい。
とは言ってもここから先の階層では街で売れる物など多くはないだろうが……
「お、戻って来たな……」
アレフが北の空をじっと見ているとベンヌの姿が小さく見えた。
足場があまり良くない岩山のような場所は空からの偵察の必要性は高い。空からの見通しが良いので目的地へのルート選択や途中に危険な箇所が無いかなど、得られる情報も多岐にわたる為だ。
「どうだった? 七階層への魔法陣は見つかったか?」
アレフの問いかけにベンヌはキュゥゥイと鳴き声をあげて応えた。
「おし。じゃあ、あまり魔物がいないルートがいいな。体力は温存しておかないと……」
あまりこの辺りには魔物の生息はないのか、ここ一ヶ月程で魔物に遭遇したことは数度しかない。ロックラビットような小型でさほど強くない魔物が多かった。デスクロコダイルという魔物はまあまあ強かったが、ミノタウロス程ではない。
単体では五階層のボスの方が強い、それがアレフのこの階層の魔物に抱いた印象である。
肉や皮を売れば金になるかもしれないだろうが、効率はバトルで稼いだ方が圧倒的にいいし、魔物も弱くデュランの進化にもさほど繋がらない為、だったら出来るだけ避けて先に進もうアレフは思っていた。
「お、そっちか?」
アレフの意図を感じ取ったベンヌがバサリと大きく羽ばたき宙へと舞った。
そして、先程戻って来た方向から少しだけ右手側に向かってまっすぐと飛び立った。
「さっきの時間を考えると……三時間くらいかかるかも……」
ベンヌが飛び立ってから戻って来るまでの時間から広さは五階層までと同じくらいのようだった。
五階層までは森とはいえ足元はしっかりしていたので駆け抜けることも出来たが、ここは岩山なので足元が良い訳では無い。
同じ速度で駆けることはアレフにもフューネルにも不可能だ。慣れればもう少し早くなるだろうが、アレフの見立てだと三時間程度かかるだろう、という事だった。
最悪帰れなかった場合の準備はして来ているが、今回のアレフの目的は一気に踏破することではなく、慎重に歩を進めること、一歩ずつ奥に進んでいくことである。
帰りの時間の計算も必要不可欠である。
「という事は往復で六時間……七階層の探索は出来て五時間程度か……」
そう呟いたアレフはベンヌの指し示す方角へしっかりとした足取りで歩みだしたのであった。
ベンヌの案内もあり、想定通りに七階層まで降り立てたアレフは少しの異変に気付いた。
六階層はゴツゴツとしたただの岩山だったのだが、七階層に降り立った周囲は少し手が加えられたような形跡があったのである。
「誰かが手を加えた? 住んでる人がいるのか? それにしてはかなり朽ちているけど……」
岩肌は道のように切り開かれていて、東の方へほぼ真っ直ぐとその道は伸びている。が、ところどころ朽ち果てており長い間整備はされていないように見える。
「とりあえず行ってみるか……」
とアレフの向かおうとしている先にベンヌがぐるぐると回っている姿が見える。
アレフの意図を察したベンヌが先に飛び立って偵察をしてくれていたのである。
様子を見る限り危険は無いようである。距離もそこまで遠くはない。確かめに行く時間と意味はあるようだと、アレフは一つ大きく頷いてから歩みだした。
ものの三十分程歩いて、小高い丘を越えるとアレフの目にも建物らしき存在が見えるようになってきた。ざっと見ると十棟前後と言ったところだろうか。小さな集落のようだった。入口の門らしき物は崩れており、建物の周囲を囲っている石の壁も朽ち落ちている姿が見える。
「村か。住んでいる人はいなさそうだが……それにしてもどうして遺跡ダンジョンの中に?」
ここまで朽ち果てていて人が住んでいるとは思えないが、村が遺跡ダンジョンの内部に存在していると言う事実にアレフは驚きを隠せなかった。
村についてとりあえず一番手前にある家の中に入ると天井まで朽ちており、空が少し天井隙間から見える。雨風は凌げないであろう。
石でできた机のような物と椅子のような物も風雨に晒され使えなさそうに見えた。
「ここはダメかな。人がいなくなってかなり時間が過ぎているみたいだ」
そう言って次々と建物の中を調べていくとその中に二棟だけ天井も朽ちておらず、中の様子もまともな物があった。特に特筆すべきはキッチン内だ。
火も使えるし、水も出る。少し片付ければ生活することも可能なくらいだ。魔法が使えないアレフにとって、調理が出来る設備が整っているのは何者にも代え難い。持って来た食料等を使わずに現地調達した食料を使えるのはかなりのメリットになる。
「ここを拠点に下の階層を調べるのはアリだな。今度は調理器具や寝具を持ち込んでこよう」
六階層に降り立ってからここまでで往復六時間の道のりが無く探索出来るのは利点しかない。道中はロックラビットのような肉なら手に入れるのは容易い。アレフは
「とは言え今日は帰らないとな。まあ、まだ時間もあるしもう少し掃除してから帰るかな」
そう言って腕まくりをしたアレフは家の片付けに取りかかったのであった。
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