二十三話 アレフの嘘
「ヘスティアも喜んでたじゃない? 良かったわね」
ヘスティアが見えなくなって、しばらくしてからアレフに背後から聞き覚えのある声が聞こえた。アレフが振り返るとそこにはルディアが立っていた。
「ルディアか。見てたのか。そうだな、あれで良かったよ……」
アレフはルディアに答えると同時に、自分へも言い聞かせるかのように答えた。
「自分の渡した召喚石から出た使い魔が
上位の召喚士にでもなれば収入も良くなるので気に入る使い魔が出るまで召喚石を買い漁ることも可能だろうが、一般人や低位の召喚士には無理なことである。
「ん? どういう意味? そういえば三つ目の召喚士の指輪なんていつの間に買ったのよ? 最近バトルにも出てないし、どうやって稼いでたのか教えて貰えるかしら?」
ルディアとはミノタウロスを倒した日に少し会ったきりだった。あの時既に持っていたことに彼女は気付いていないということだ。
「ミノタウロスだよ。って言ってもわからないか……五階層のボスがミノタウロスなんだ。で、そいつを倒すと召喚士の指輪を
そういってアレフは首から下げたネックレスを外してルディアに見せた。
「えー! 凄いじゃない! ミノタウロスを倒せば手に入るのね……召喚士の指輪も手に入るし、ネックレスは売れば儲かる。あたしも遺跡ダンジョンに潜ろうかしら。」
少しキラキラした瞳でアレフの持っているネックレスを見つめるルディアに対してアレフは淡々と言い放った。
「やめといた方いいと思うぞ。あ、あとこの召喚士の指輪は
ルディアはまるで言ってることが理解出来ないと言った表情をしている。アレフは収納用の魔法陣を展開し、一つの指輪を取り出した。
「こっちが
そう、ヘスティアには使い魔が慣れるまで時間がかかると嘘を吐いて、新たな使い魔を手に入れられるまで見せることを待たせたのである。
実際、普通に従わせるなんてすぐにできる。そもそもそんな必要すらない。しかし、ヘスティアは召喚士ではないので騙せたのだ。
「昨日手に入れたばかり? なんでそんな嘘を? やめといた方がいいってどういうこと?」
さらに混乱したルディアはアレフに質問を畳み掛けた。
「そうだな……とりあえずやめといた方がいい理由だけど……」
そう言ってアレフは左手に着けていた
「とりあえずミノタウロスが落とすめぼしい物はこの二種類、あとは肉とか角とかで換金は出来ない。で、この二種類……三つを手に入れるのに倒したミノタウロスは……五千を優に超えるよ? 正確に数えてないけどね」
その言葉を聞いたルディアはアレフの顔と手のひらを交互に見つめて呟いた。
「ご、ご、五千……? い、一ヶ月よね?」
「そう、五千以上ね。最初は一日百体くらいだったけど、すぐに慣れて倍は倒せるようになったから……五千以上……六千前後じゃないかな」
「……………………」
ルディアの想像をあまりにも超えていたようで、ルディアは絶句している。
確かにアレフ自身もなかなか落とさないとは思った。
手に入れたことは無いが、召喚石から
一方はお金がかかるし、また一方は命の危険がある。
同列に語ることはできないが、どちらも容易ではない。
「た、確かにそれじゃ普通にバトルで稼いで買った方が楽ね……」
「だろ? お陰で貯めていた稼ぎも少し減っちゃったよ
。まあ目的だったネックレスも手に入ったからいいっちゃいいんだけどね。母さんにもさすがに悪いことしちゃったからこれからフォレストグリズリーを狩りに行かないと。最近、寝てる時間も長くなって来たみたいだし……
薬をあげて少しでも体調を良くしてあげないとね」
ルディアの表情に少しの影が落ちたのだがアレフは
「で、ヘスティアを騙した理由はこれ……」
そう言ってアレフは
「ミストか。これじゃあ仕方ないかもね……実体もない、魂も意思もない、ただの霧だもんね……」
ルディアの言う通り使い魔の名はミスト。ただの実体の無い霧が漂うだけの使い魔である。レア度は
「さすがに足でまといにすらならない使い魔を見せる訳にもいかなくて……」
そう言って肩を竦めたアレフはすぐにミストを戻して召喚士の指輪ごと収納用の魔法陣の中にしまった。
「という訳、三つ目の召喚士の指輪は勿体ないけど使わないでしまっておくしかないかなって。ま、四つ目も手に入ったし使い魔は三体までしか召喚出来ないからこうするのがベストかな。ヘスティアには黙っててね?」
「ええ、勿論……」
ルディアはゆっくりと頷いた。ルディアとしてもヘスティアを傷つける必要はないので理解を示したのだ。
「じゃ、俺は行くから。フォレストグリズリー狩ってこないと。じゃあな」
そう言ってアレフはその場を後にしたのだった。
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