二十一話 新たなエリア
いつも通りの眩い光が収まると、そこにはいつも通りではない光景が広がっていた。今までのような森の中ではなく、見渡す限り岩肌が見えた。ゴツゴツとした大小様々な岩。高低差はさほどある訳では無いが、岩山の中腹と言うイメージである。
「森の次は岩山か……足場はさほど良くはない。探索も今まで通りという訳にはいかないな。それに森の中よりも食糧事情は良くないだろう」
いざとなれば食べられる木の実や果実があった今までの光景に比べると、植物は絶望的に存在していないように見受けられる。現地調達と言うのはより厳しくなったことは用意に想定できた。アレフは今まで以上に収納用魔法陣が発動するネックレスの必要性を実感したのである。
「さて、時間は……まだ大丈夫そうだな……
想定通りあるといいんだが……」
アレフは天を見上げ、日の位置を確認し呟いた。ここから戻る時間も想定しておかないといけない。とは言っても一つ考えがあり、それを確かめる必要があった。ここにはないが転移用の魔法陣の存在だ。それによってはここまでの道中をショートカットして辿り着くことも容易になるからだ。滝の中の部屋にはいくつもの魔法陣があった。しかし、二階層から五階層には転移出来るような魔法陣は見当たらなかった。
ならばボスを倒した後の六階層にあるのでは、と考えたのだった。
周囲の様子が森の中と一変したのというのも可能性が高い。もし、そのような魔法陣があればあの部屋を中継地点として遺跡ダンジョンを攻略することが出来る。少し時間をかけても確認する意味はある。
「予想通りなら、こっちかな……」
アレフは日の位置から方角を確認し南へ向かう。実は今までの一階層から五階層を隅々まで探索してみて分かっていることがある。六階層以降は当てはまるかわからないが……
それは一階層から五階層まではほぼ同じ作りをしているということだ。階層の広さ、前の階層から転移してくる魔法陣の位置、次の階層へと転移出来る魔法陣の位置。これらが大体一緒だったのである。
六階層も仮にそうだとすると一階層で言うと
もし無かった場合は今まで来た五階層を全て自力で戻らなければならない。その為、その時間を残しておかなければならないが、逆に考えればギリギリまで確かめる価値がある。アレフはそう思って向かったのだ。
程なくしてアレフの目の前には家を軽く凌ぐ程の大きさの岩が見えた。岩とは言っても周囲は絶壁である。しかし位置的には推測していた場所とさほど相違ない。
「これかな? 確かめる必要があるな……登ってみるか……
しかし難儀だな、これは」
指先一本でも体を支えられる程鍛錬をこなしたアレフでさえ少し躊躇う程の絶壁である。手足をかけられる場所はほぼ見当たらない。並の人間は登ることなど出来ないだろう。
それ以前に魔法陣の存在があると推測しているアレフのような者以外は登ろうともしないだろうが……実際アレフも知らなければ登らなかっただろう。
「っと……あった……」
最後、崖の縁に手をかけグイッと体を引き上げると、頂上は平らになっており、予想通り魔法陣が目に入った。
「これで探索もかなり楽になる」
魔法陣の存在を確認出来たアレフはそう呟いたのだった。
転移を終えるとアレフはいつもの部屋にいた。予想通りの結果である。そして今転移してきたばかりの魔法陣に目をやると、周囲に二本の円がある。いつもの魔法陣は一本の円なので、これも予想通りだった。
五階層ごとにボスが居て、その次の階層にはここへ戻ってくる転移用の魔法陣が存在している。
今度は一階層の魔法陣を使ってここを経由し六階層から探索を始めることが出来るのは朗報だと言えるだろう。
パチパチパチ……
どこからともなく拍手が聞こえ、次いでいつもの女性の声が響く。
「おめでとう、ミノタウロスを倒したようね」
アレフはいつものように天井を見上げて声に答えた。
「ああ、お蔭さまでな。ところでいくつか聞きたいことが出来た。聞いてもいいか?」
「ええ、答えられる範囲でならね」
「いつも通りだな。それはもちろんだ」
アレフは腕を組んで少し首をかしげ、考えながら話し出した。
「まず、お前はミノタウロスのことを知ってたのか? 他のボスのことも知っているのか?」
「ええ、知ってるわ」
「じゃあ次のボスの事を……ってこれは答えられないだろうな……」
と言い肩を竦めたのだった。今までミノタウロスのことを聞いた事はないが、予想だと到達しないと教えて貰えないのだろうと思ったからだ。
「ご名答、その通りね。第二エリアから来た者には第一エリアのことは教えられるけど、第二エリアのことは教えられないわ」
案の定の返答にアレフは大きく頷いた。やはり予想通り進めば進むほど情報が得られるようだ。
「ならミノタウロスのことを聞きたい。
そう言って先程手に入れたばかりの三つ目の指輪を頭上に掲げた。
「ええ、そうよ。運がいいじゃない、
「ちなみにミノタウロスは復活するのか? 運がいいってことは
「どちらの答えもイエスね」
そこまで聞いたアレフは掲げていた手と視線を下ろして、召喚士の指輪を左手の中指にはめながら呟いた。
「へえ、収納用のネックレスなんかも落とすと良いんだけどな……そんな都合のいいこと……」
「落とすわよ」
「ないか……っておい、マジか……?」
アレフは驚きの余り、つい天井を再度見上げてしまった。
「嘘言ってもしょうがないじゃない」
「まあ、そりゃそうなんだが……ちなみに、ミノタウロスの復活する頻度はどれくらいなんだ?」
「すぐよ。転移して戻ればすぐ復活してるわ」
アレフは腕を組んでじっと考え込みながら呟く。
「なるほど。じゃあ体力と相談してしばらく挑戦してみるか……あ、あともう一つ聞きたいことがある。フューネルの進化条件は教えて貰えるのか?」
「まだ駄目ね」
「なるほど……もっと先まで行かないと駄目ってことか。ありがとな。さて、とりあえず帰るか」
そこまで聞いて満足したアレフは一階層への魔法陣で帰路に着いたのだった。
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