十四話 カイトの策略
あれから六日が過ぎて七日目……約束を交わした日から一週間後の今日、アレフは一人控え室で自分の出番を待っていた。今日の最初に組まれている自分のバトルに出る為だ。
先程まではルディアも一緒だったのだが、観戦席で応援すると出ていったところだ。バトルは一日何試合か組まれており、アレフは今日一番最初の試合である。大体が後半になるにつれてランクの高い者が出てくる。
まあ、普通はFの試合なんて見に来る者などいない。
アレフは最初の頃はまだしも、今は勝てないからバトルへの参加をあまりしていなかった。否、
今なら状況も違うので勝てるだろうが……
ちなみにお金を稼ぐには安全なだけではなく、効率面でもバトルが有利だ。遺跡ダンジョンで手に入る物は全て売れる訳では無いし、扱い方もわからないようなものはより売れにくくなる。
殆どの召喚士が精々三階層くらいまでしか行かないので、その辺りまでの物しか売れない。価値のわからないもの、役に立つかわからないもの売れないという訳だ。命の危険を犯した上に、実入りの少ない遺跡ダンジョンに潜る召喚士が殆どいないのも当然の事だった。
「ランクが上がったら、バトルにも出ないとなぁ……」
アレフの目指すところは遺跡ダンジョンの最下層ではあるが、収納用の魔法陣が発動するネックレスは絶対に欲しい。
魔法の使えないアレフにとっては飲料水の確保もままならない。一日で往復できる場所ならまだしも、深く潜れば潜るほど未知であり、往復にかかる時間も当然長くなる。食料や水の現地調達が出来ない可能性がある以上、必要なのは明らかだった。
それにこの一週間でわかった事がある。デュランの進化についてだ。魔物の返り血で真っ赤になると言っていた。確かに少し赤い部分が出来た。五ミリくらいの大きさでしかないが……
最初は嘘なのではないかと思うくらいに染まらなかった。何体倒して返り血を浴びせても元の色に戻ってしまうのだった。ただ、百は超えるであろう魔物を屠った時にアレフは少しの変化に気付いた。魔物の強さなのか数なのかはわからないが、確実に言えるのはすぐに進化出来るような条件じゃない、ということだった。
まあ、報われることを期待せずにただただ鍛錬に励んでいたアレフにとっては、終わりの見えることをすればいいだけなのだから、何の問題もないのだが……
そんなことを考えていると、控え室に大きな声が響いた。
「おい、アレフ! 出番だぞ! 来い!」
闘技場の入口付近から呼ばれた声に従いアレフは闘技場の中へと入って行った。
闘技場の中に入ったアレフの正面にはレイモンドが少し震えながらも偉そうにふんぞり返っていた。
周囲を見渡すと、観客席には五十人くらいだろうか……それくらいの観客が入っているようだ。F同士の闘いでは異常と言っても良い程多い。恐らくカイトが手を回したのだろう。
「お、ヘスティアも来てるのか」
アレフから見て正面少し右側に手を振っているルディアの姿が見える。その隣には紫色のショートカットの可愛い女の子がバツが悪そうに座っている。アレフはその女性を知っていた。ルディアの友達のヘスティアだ。かなり内気な性格ではあるが、ルディアと同じようにとまでは言えないが、あまりアレフに侮蔑的な態度を取らない貴重な人物の一人である。
ルディアに誘われて来たのだろう。あまり性格上、バトルを見に来るような人物ではない。彼女は召喚士ではなく、街の食堂で働いている。
観客席左側にはカイト達三人が、デンッと居座っている。周囲に少しスペースが空いているのは彼らが好かれている訳では無いのを物語っている。
「まあ、それ以上に俺は嫌われてるんだがな……」
ふと思ったことをボソッと呟くアレフ。そう、このルディアとヘスティアを除く観客達は、誘ったのがたとえ嫌われ者のカイトだったとしても、アレフの無様な姿を一目見たいと思っている者達なのである。
「お、おい! 一つ話がある!」
始まる前の少しざわついた雰囲気の中にレイモンドの声が響き渡り、それを合図のように闘技場の中は水を打ったように静かになった。
「なんだ?」
普通はこんなことなど無い。闘技場に入ったら審判の合図でバトルが始まる。少し疑問に思いながらアレフはレイモンドに尋ねた。
「こ、これは召喚士同士のバトルだ! 決して野蛮な喧嘩などでは無い! そうだな!」
アレフは大きく頷いた。こいつらにしてはまともな台詞を吐くと思ったからだ。レイモンドはニヤリと笑いながら続けた。
「だ、だからお互い魔法陣から出ないで闘うべきだ! そう思うだろ?」
何を馬鹿なことを……とアレフが口にしようとした瞬間に坊主頭の審判の声が響き渡る。
「レイモンドの言う通りだ! このバトルは魔法陣の外に出た時点で負けとする!」
その後すぐに観客達の歓声や怒声で、闘技場が埋め尽くされる。怒りの表情で何かを叫んでいるルディアと困惑の表情でオロオロしているヘスティア以外は、侮蔑的な笑みを浮かべている人間が殆どだった。
カイト達と審判がより深く笑っているのは、こちらも既に話が出来ていた証拠だろう。ルディアとヘスティア以外の人物達にも話は通っていたに違いない。
恐らく模擬戦での負け方で、アレフの闘い方はデュランを使っての接近戦のみと踏んだのだろう。もしかしたらトイハウンドで
バトルは模擬戦と違って、次の試合の都合上、制限時間がある。最悪接近戦を封じれば引き分けには持ち込める、と言った算段なんだろう。
アレフはスっとフードに手を伸ばして目深に被る。
つい溢れ出る笑みを隠す為に……
「フフ……思い通りに行くと思うなよ……」
そうアレフが呟いた瞬間に開始の合図を告げる審判の声が闘技場内に響き渡った。
「
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