十二話 合成
「ここが目的の場所? 何もないじゃない……」
アレフはルディアを転移の魔法陣が隠されている滝の前まで連れてきたのだった。当然今は隠されているので、ルディアは今のような反応を示したのである。
「ほら、あの滝があるだろ? あれの流れが変わって中から転移の魔法陣が現れるんだ」
アレフは滝を指さしてそう言った。
「へぇ……じゃあさっさと出してよ?」
ルディアは腕を組んで、さも当然のようにアレフに頼んだ。
「無理だよ? 勝手に出てきたから」
「じゃあいつまで待てばいいのよ?」
「さぁ……」
アレフの言葉に少しの沈黙の時が流れる。
「さぁ……って本当にここなの? 騙してない?」
ルディアは少し怪しんでいるような表情している。
「うーん……俺も昨日初めて見たしなぁ……」
「ってじゃあなんで連れてきたのよ……」
がっくりと肩を落とし、少し呆れた声色でルディアは呟いた。
「いや、今日連れてけっ言ったのはルディアだぞ?」
「あれ、そうだっけ? あはは……ごめん……」
そう言えばそうだったと思い出したのか、ルディアは乾いた笑いで誤魔化したのだった。
「いやいいって。まぁ確証は無いんだけど……でいいか?」
「もちろんいいわよ」
ルディアは真剣な顔付きで頷いた。
「ランク戦の日……多分丁度昼の十二時前後だと思う……正確な時間はわからないけど、太陽の位置から考えると恐らくそうだろう。多分、その時間にだけ滝が割れるんだ。そうすると中に転移の魔法陣があってそこから行ける」
アレフは昨日の出来事を少しずつ思い出しながら語った。
「なるほど……ランク戦の日に限ってか。だから誰も知らないのね……」
腕を組んで深く何度も頷くルディア。そんなルディアにアレフも頷いたのだった。
「今でも滝の中入っていけばあるだろうけど、行ってみる?」
クイッと親指で滝を指さしルディアに尋ねる。
「濡れるわよね……」
「ああ……間違いなく……」
ゆっくりとアレフは頷いてた。
「着替えも持って来てないし遠慮しとくわ……」
と、その時アレフは何かを思い付いたのだった。
「あ、そうだ!」
そう言ってアレフはデュランを召喚したのである。
「それっ!」
そして、思いっきり滝の方に投げつけてデュランを突き刺したのだった。すると、デュランに滝の流れが堰き止められ、洞窟が姿を現す。
「あ……本当だ……」
現れた洞窟にルディアが少し呆然としているのを横目にアレフはヒョイっと飛び移った。
「よっと……あれ?」
ルディアが付いてこないことにアレフは気付いた。
「ルディア? こないのか?」
「こんな距離飛び越えられる訳ないでしょ!」
「おっと……すまんな」
アレフは一度戻って、今度はルディアを軽々と抱き上げた。
「きゃっ!」
そして先程と同じように、今度ルディアを抱きながら飛び移る。
「これで良しと……」
「あ……ありがと……」
少し顔を赤くしているルディアをゆっくりと下ろしながら、アレフはルディアに言った。
「気にするなって。でも、少し重くなったんじゃないか?
胸は全然成長……」
バシーン!
「バカッ! 重いとか何年前と比べてんのよ! それにちょっとはおっきくなってるんだからね! さっさと行くわよ!」
怒ったルディアはアレフの頬を思いっきり引っぱたき、魔法陣の中へと消えて行ったのだった。
アレフが転移を終えると、既に転移していたルディアが部屋をキョロキョロと見回していた。
「ここが……そうなの?」
アレフは先程ひっぱたかれた頬を擦りながら答えた。
「ててて……そうだよ」
アレフがルディアの横まで近づくと部屋全体に女性の声が響き渡る。
「あら、また来たのね?」
その声に二人は天井を見上げた。
「ああ、昨日ぶりか? こいつが興味があるってうるさくてな。もう来ちまった」
アレフはルディアを指さした。
「あそこの入口は滝の流れで見えないはずなんだけど?」
疑問を述べる声にアレフはデュランを喚びだして、頭の上に掲げた。
「ああ、こいつで滝の流れを遮ったんだよ」
「とんでもない使い方するのね……」
女性の声は少し呆れているような声色に聞こえた。
「ね、ねぇ! ちょっと! この声って何なの?」
アレフと声のやり取りを少し呆然と聞いていたルディアは、やっと状況が飲み込め始めたのか、アレフの肩をガシッと掴んで尋ねた。
「それは俺も聞きたいんだよ。ってか聞いたんだけど、教えてくれなかったんだよ。だからとりあえず諦めろ」
「とりあえず?」
そこまで言うとアレフは再び天井を見上げた。
「条件によっては答えてくれるんだろ? その条件は何だかわからないけど」
昨日の回答は少し含みがあった。今は答えられない、と言っていたのである。なら、今じゃないいつか、その時に質問すれば答えを貰える可能性はあるだろうとアレフは思っていた。
「そうね……でも、今も答えることは不可能です」
その言葉を聞いて、アレフはルディアを見て肩を竦めた。そして、再び天井を見上げて尋ねた。
「じゃあこいつの事を知りたい。こいつも進化出来るのか?」
アレフは再度デュランを頭上に掲げた。
「ええ、全ての使い魔は進化は出来るわ。もう進化先が無いくらい強くなるまではね。もちろんその子もそう。今はまだ進化条件満たしてないけど。そうね……それは教えてあげられるわ。その布……それが魔物の返り血で真っ赤な布に変わるまで屠りなさい。それが条件よ」
アレフはデュランを目の前に下ろして見つめた。根元に巻きついている布。魂を吸うと言われているこの布だ。これが真っ赤になると言っているのだ。
「了解……ありがとな……それならわかりやすくていい」
アレフがデュランを見つめて呟いていると、隣でルディアが手を挙げて大きな声で天井に向けて尋ねた。
「はい! あたしの使い魔は進化出来ますかぁ?」
しかし、感情も無いように感じる声で返ってきた返答はルディアを少しがっかりさせたのだった。
「無理ね……全部信頼度も足りてないし、条件も満たしてない。使い魔を道具としてしか見てない。そんな人には使い魔も道具としてしかみないから」
せっかく来たのに進化が出来ないと言われ肩を落とすルディアに声は続けた。
「進化のように強くはならないけど、合成なら出来るけどね」
「進化は出来ないけど合成なら出来るの? でも、合成は進化ほど強くならないって言ってたよな?」
アレフは天井に向かって問いかけた。
「ええ、そうよ。合成した場合は召喚石の場合と同じ能力の使い魔になるわ。進化の場合は同じ使い魔でも能力は段違いね」
アレフとルディアが視線を交わし頷きあう。ルディアに聞かせる為に確認したのであり、実際のフューネルの強さを目の当たりにしていたから、進化の方が強いと言うのは自身の身で実感している。
「なるほど……じゃあ合成するメリットなんか無いじゃない?」
ルディアはアレフが頷いたことを確認すると、再度天井を見上げ尋ねた。
「メリットは一つあります。それはある程度のコントロールが出来ます。召喚石は完全にランダムだけど合成は完全にランダムと言う訳じゃないわ。だから組み合わせ次第で強い使い魔が出来るのが元々わかるのよ。手っ取り早くわかるのはレア度ね。違うレア度の合成の場合は高いレア度の方と同じレア度の使い魔
同じレア度の場合は一個上のレア度の使い魔で出来るのよ」
ルディアは下を向いて考え込んだ。
「なるほど……
》なら
その呟きに声が答えた。
「ええ、その認識で間違いないわ」
「確かに下手に召喚石に頼るよりも、合成してった方が強い使い魔に確実に辿り着ける……途中で最高の
ルディアは顔を上げて喜んだのだった。
「
「どうしたんだ?」
天井から聞こえる呟きにアレフが疑問に感じ尋ねる。
「いえ、なんでもありません。で、どうするんですか?」
声に対して、ルディアは片手を突き上げて元気よく答えた。
「勿論やるわ!」
「では何を合成させるの?」
ルディアは腕を組んで首を捻った。
「そうね……まずは
「決まったの?」
声に促され、ルディアは元気よく答えた。
「ええ!」
「では二つの指輪を黒い魔法陣の中心に置きなさい」
ルディアは指示された黒い魔法陣の中心に二つの指輪を置いてから数歩離れた。
次の瞬間、魔法陣が黒く輝き、中心から魔法陣の淵に向けて段々と闇の球体が広がっていく。魔法陣が闇の球体に包まれたあと、段々とその闇の球体が薄くなっていくと、一つの指輪には召喚石が付いたまま、もう一つの指輪に付いていた召喚石は消え去っていた。
ルディアはその指輪を付けて召喚を試みる。出てきた使い魔は背中に羽が生えた神々しい人型の使い魔だった。
「アークエンジェルね。天使族の
腕を組んで満足気に何度もルディアは頷く。
「まだ合成します?」
その言葉に、ルディアは首を横に振った。
「いや、とりあえずこれで
満足気なルディアを見て、アレフは大きく頷いたのだった。
「おし! じゃあ行くか!」
そうして二人はこの場を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます