第2話 外側の世界と、いまの「私」
--- イントロダクション -------------------------------------------------------------------------------
あの日、私は海を眺めていた。
まだ年が明けたばかりだったが、非常に暖かな日だった。
青く広大な海は、
太陽の光を浴びて実に穏やかに揺らめいていた。
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外の世界に初めて触れたとき、
私は真新しい世界に圧倒されたのと同時に、
何か大きなものが得られることを期待して胸を膨らませていた。
実際に、私は今までに見たことのないような巨大なビル、
華やかなショップ、大勢の人々、騒々しい街の音を体感した。
そして、私はあることを強く感じた。
外側の世界では全てが互いに無関心に孤立していたことである。
外側の世界には、内側の世界よりも多くの住民達がいるにも関わらず、
街中の誰もが全く異なる世界を歩いていたのである。
下品な笑みを浮かべて通話しながら楽しそうに歩く若い女性、
真剣な顔つきで遠方を見ながら進む外国人、
疲弊した顔で駆けていく、
背中に汗の大きく滲んだサラリーマンたちは、
同じ空間を共有していながら、
絶対に交わることのない、ねじれの位置にあった。
それは、ある側面からは賑やかだといえ、
別の側面では冷めきっているといえた。
私は、それを心地良く感じていた。
外側の世界の住民の全員が、
現実の中を生きていると思ったからである。
しかし、それは違っていた。
外側の世界の住民もまた、
それぞれの思い描く幻想の中を生きているに過ぎなかった。
内側の世界の住民も、外側の世界の住民も同じように、
愛や友情、夢や社会、家族に恋人に仲間といった、
幻想世界を謳歌しているようだった。
私も、何度か幻想の中に迷い込むことがあった。
しかし、私は幻想の世界を受け入れられなかった。
それを受け入れることが、酷く恐かったのである。
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