2章:兄妹雪解編

第36話:添い寝にいに

 菜那ちゃんの部屋に入る。本人の承諾も無しなのが罪悪感を煽るが、四の五の言ってられない状況でもあった。まあ本人の承諾と言っても、その本人が4歳児になってしまってるんだから、やむなしというところなんだけど。


 ちなみに菜那ちゃん(17歳)のドッキリとか、そういう線はハナから疑ってない。今日から再就職に向けて踏み出すと言う兄を妨害する意味も分からないし、そんなタイプでもない。大体、もしそうなら、今ここにいる菜那ちゃん(4歳)を名乗る子は全くの別人を用意したという事になってしまう。そしてその見ず知らずの子をドッキリのために誘拐して、裸にひん剥いた挙句、兄の布団に放り込んだ。

 ……気が触れているとしか思えない。よって総合的に見て「有り得ない」という判断だった。


「にいに、さむい」


「ああ、ごめんね。服だね」


 それを取りに、無断を承知で妹の部屋に入ったんだった。とはいえ……


「マジか」

 

 彼女のベッド、はいだ毛布の下に、ショーツとブラ、パジャマの上下が。パジャマは完全に……なんというか脱皮したかのようで。仰向けに寝たまま、スルッとパジャマだけ脱いだら、こういう形になるんじゃないかという形状だった。


「菜那ちゃん。おパンツは自分で脱いだの?」


「うん。なんかブカブカで、いやだった。おむねのところにもなんかあって、じゃまだからどけたの」


 ていうか冷静に考えたら、4歳児の体に合う服が(いくら本人とは言え)菜那ちゃん(17歳)の部屋にあるワケないわな。動転しすぎだ。

 しかしこの子の言う通りなら、寝ている間に体が縮んだということにならないか? あ、いや、知能の方も幼児化してるから……


「ぐしっ!!」


 菜那ちゃんのクシャミで思考が遮られる。


「っとと、ごめんね。取り敢えず、お布団の中、入ってて」


 菜那ちゃん(17歳)のブラ、ショーツ、パジャマを回収して、ベッドを空ける。菜那ちゃん(4歳)が小さな手足を動かしてベッドによじ登ろうとするが……


「ん~! ん~!」


 ベッドはその下段に収納引き出しがついているタイプなので、少し高さがある。そっか、これくらいで登れないのか。改めて4歳児の体の小ささに驚かされる。っとと、落ちる。反射的に菜那ちゃんのお尻を下から支えた。


「う」


 柔らかい。とんでもなく。手に吸い付くみたいだ。赤ん坊の肌とまだ大差ないんだな。少し力を入れて、持ち上げてやる。無事に両足もベッドの上に乗った。


「わあ。すごい、すごい。のれた」


 エヘヘ笑いでこっちを振り返る菜那ちゃん。その体にそっと毛布を掛けてあげる。すっぽんぽんのまま、ここまで来させて可哀想だったから、俺自身もホッとする。それに、確か子供は熱を出しやすいんだったよな。風邪には気を付けてあげないとだ。


「にいにも」


「え?」


「ねんね」


「いや、俺はな」


「ねんね!」


「あー、はいはい」


 逆らえない。小さな子供のおねだりは凶器だな。俺は菜那ちゃん(17歳)に心の中で謝りながら、ベッドに乗る。毛布を持ち上げて、体を潜り込ませた。枕に頭を乗せると、トリートメントの芳香。少し落ち着かない。菜那ちゃん(4歳)がにじり寄って来て、片腕に抱き着かれた。高い体温。プニプニの感触。


「にいに」


「ん?」


「……」


 目がトロンとしてる。用があって呼んだワケじゃないのか。


「少し寝てて良いよ」


「うん……」


 完全に目蓋が落ち、少しすると、すうすうと小さな寝息が聞こえてくる。俺は上がっていた口角を戻し、彼女を起こさないよう慎重に体を動かす。ベッドを抜け出し、勉強机の上に仮置きしておいた菜那ちゃん(17歳)の衣類をまとめて抱える。


 1階に下りて、洗濯機に投入。洗面所でへたり込むと、やっと生きた心地がした。はあ~と長大息。もちろん原因の究明とか、理不尽への嘆きとか、そういった気持ちもあるけど、今は脇に置く。


「どうするかな」


 まずは服だろう。いくら4歳児とは言え、素っ裸で居させるのは目のやり場に困るし、何より可哀想だ。秋も深まってきてるし、子供はさぞ寒いだろう。


「母さんの部屋に、子供服が残ってると大いに助かるんだけど」


 特に物持ちが良いという印象はなかった母親。逆にすぐ捨てるってイメージもなく。なので多分フツー。ただ子供の記念の品とかは置いてる人だったハズ。


 祈るような気持ちで、1階の夫婦の寝室を当たった。両親が鬼籍きせきに入ってからは、数えるほどしか足を踏み入れたことはない。ここの掃除なんかも妹に任せっきりだったな。ダメな兄貴だ。


 押し入れの襖を開くと、収納ボックスがギッシリ詰まっていた。埃っぽくて、軽く咳が出た。


「この中から……」


 あるか分からない、子供時代の菜那ちゃんの洋服を探す。タイムリミットは彼女が起きてくるまで。出来るか? いや、やるしかないんだけどさ。本当に風邪でも引かれたら、医者にすっぽんぽんのまま連れて行くことになる。そうなれば、治療の前に俺が虐待容疑で捕まる未来しか見えない。


「やるっきゃねえ」


 まずボックスを外から一段一段、確認していく。幸い、ボックスは半透明なので、外から覗いて防虫剤が入ってる段から優先的に探していくことが出来そうだ。


「これなら間にあ」


「うわああああん! にいにぃぃ! どこぉぉ!!」


 全然、間に合ってなかった。グッスリ寝ついたんじゃないの、キミ。



 



 ====================


 落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。

 というワケで軽く再開します。まあもう伸びるも何も無いので、気ままなペースでノンビリやっていきます。取り敢えずは次の区切りとなる60話まで上げて、また少し休憩という感じで。気長に待っていただくより、完結してから読まれることをオススメします。

 あとタイトルを変えました。こっちの方が分かりやすいかなあ、と。

 

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