第27話:全快兄さん
『新田拓実のレベルが5→6になりました。スキル:脚力強化を獲得しました。逃げ足が速くなります』
言い方よ。まあ今さっきの攻防を思えば、ありがたいけどな。
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名前:新田拓実
職業:Fランク探索者
レベル:6
スキル:ダンジョン農園LV2
鑑定LV2
交雑表
脚力強化LV1
備考:
農園ダンジョンの2層を踏破。良いペースである。頑張れ、拓巳。
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珍しく温かいメッセージ。と思ったら名前の漢字、間違ってんだけど。まあいいや。スキルの確認をしないと。
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<脚力強化LV1>
読んで字の如く、所持者の脚力を強化するスキル。パッシブスキルに分類され、ダンジョン内では常時発動している。走行速度やキック力などが上がるため、持っていて損はない。
成長限界はレベル7
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なるほど、キック力もか。現状はゴルフクラブがメイン武器だけど、今後、肉弾戦にならないという保証もない。あるに越したことはないよな。
「兄さん、私もレベルが上がりました」
「おめでと。何か覚えた?」
「私も鑑定を貰えました。兄さんの朗読……良かったんですけどね」
「よしてよ」
とは言いながら、もしかしたら菜那ちゃんも俺の朗読を通して子供の頃を思い出していたのかも知れないなと思った。まあ何はともあれ、彼女の言う通り、これからは俺が読み上げて情報を共有する必要はない。
「しかし……そうですか。おじさんキャタピラーは、寂しい虫だったんですね」
早速、自分で鑑定してみたんだろう。菜那ちゃんが寂しげに呟いた。
「まあ……そうみたいだね」
「愛されたいなら、自分から始めないと……」
「……」
実際、おじさんキャタピラーのこと言えないのかも知れんな、俺も。
……話題、変えるか。
「ところでさ。薬草が落ちてるかも知れないんだよね。高確率とあったし」
「あ! そうでした! 兄さん、足は?」
「うん。今はアドレナリン出まくってるから、そこまで痛くないけど」
「薬草、見つけて使いましょう」
「売値次第かな。まあ火傷はしてるだろうけど、そこまで」
「兄さん!」
遮られた。菜那ちゃんは、痛みを堪えるような顔をしてる。
「わかった。わかったよ。使わせてもらう」
降参のポーズで折れる。しまったな。つい、いつものクセが出た。
「兄さんは待っててください」
そう言うと、タタタと駆け出し、おじさんキャタピラーの傍を隈なく探し始める。そして1分ほどして、草を手にした妹が、こちらにブンブンと手を振る。見つけたらしい。走って戻ってくる。
「ありましたよ!」
「うん、ありがと」
「裾を捲って下さい」
靴を脱いで、裾を捲る。ちょっとニオイが篭ってたみたいで、鼻にきた。昼間もオワコンダンジョンに潜ってたからな。実質、今日だけで5時間くらいは激しめの運動をした計算だ。クサくて当然か。
けど菜那ちゃんはニオイに顔を顰めることもなく、薬草を手で擦るようにして擂り潰し、汁を火傷痕に塗り込んでいく。
「……」
必死な横顔。丁寧に塗り伸ばす、たおやかな指先。眺めているうち、段々、足が楽になってきた。菜那ちゃんが、そっと手を離すと、綺麗さっぱり元通りのくるぶしが見えた。
「よ、良かった」
はあと大きく安堵の息を漏らした妹に、
「ありがとう。痕も残らなさそう。菜那ちゃんのおかげだ」
労いと感謝の言葉をかける。彼女の手の中、半分ほど擦れてボロボロになった薬草を見た。こっそり鑑定。
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<薬草>
軽傷を治す。煎じ詰めてポーションにすることも可能。グレードがあり、上薬草、特上薬草といった上位互換が確認されている。モンスターのドロップや、宝箱からの取得、ショップでの購入などが主な入手方法となる。
時価5万円。
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高いと言うべきか、安いと言うべきか。まあでも、あの程度の火傷なら消してしまえるんだから、稼いでいる探索者からしたら、すぐ戦線復帰できる点を考えれば安いモンか。
けど確か、これ売値だよな。買う時は流通やら挟まるから、7~8万円くらいは覚悟した方がいいのか。いや、佐藤さんたちが薬草需要が高まってるって言ってたし、10万円くらい見積もっとくべきか。
「ふう」
立ち上がる。少し歩いてみる。いや、すごい。本当に何事もなかったかのようだ。そのまま歩いて、おじさんキャタピラーの死骸の方へ。
「素材のドロップもありそうだけどな」
???と表記されてたけど、ナシとは書かれてなかったからね。うーん、それらしい物は、と。
「あれか?」
追いついてきた菜那ちゃんも見つけたらしく、怪訝な表情をする。なにせ……謎の物質だ。球状ではあるけど、なんか表面がヌトヌトしてるんだよな。
更に近づいてみる。おじキャタの口部付近だ。口から吐き出されたんだろうか。
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<おじたん>
おじさんキャタピラーが落とす素材。抜群の粘着力を誇り、
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おじたんってのが何なのか、それをまず説明して欲しいんだが。おじさんの痰の塊なのか。胆嚢とかそういうアレなのか。或いは舌を意味するタンなのか。いや、どれにしたって全部ロクでもねえし、触りたくねえな。
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