第20話:ビギナー兄さん

 石段を下りきったところで、少しだけ肌に違和感。何か薄い膜を突き破ったような。そういやネットで見たな。ダンジョンと人間界の境界をまたいだ時に、こういった感触を覚えると。


「農園ダンジョンとは毛色が違うな」


 巨大門の前でナビと一悶着あったからな、あっちは。

 改めて入ったばかりのダンジョンを見渡す。いや、見渡すも何も、通路の入り口に立ってるみたいで、両サイドは石組みの壁。前方もずっと通路が続くのみだ。


「なんか、これぞダンジョンって感じはするな」


 薄暗い地下の通路を進んでいく、オールドスタイルなヤツ。T字路にぶち当たった時、白い矢印もT字に3つ出るような。


「ぶち当たったら、どっち行こうかな」


 呟きながら道を進んで行く。やはりここも謎燃料で灯り続けるランタンが壁に掛かっている。


「ちょっと触れてみるか」


 手を伸ばしてみるけど……


「あれ?」


 スカッと手が空を切る。ホログラムを突っ切ったみたいな。


「非実在……ってことか?」


 じゃあ壁も、もしかしてそうなのか、と更に手を奥へ伸ばすと、壁は普通に触れた。ゴツゴツとした石の感触。ひんやりと冷たい。ならやっぱりランタンの光は熱を持っている実在の物ではないのか。


「思えば外気温と大して変わらないのも不思議だよな。冬になれば、ダンジョン内も、もっと寒くなるのか?」


 不思議がいっぱいだ。けどどうやら、検証の時間は終わりのようで。


「来たな」


 前方からスライムくんが現れた。そう言えば、農園ダンジョンでは鑑定を使ってなかったな。というワケで、はい。




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 名前:スライム


 レベル:1


 素材:なし

 

 ドロップ:薬草(低確率)


 備考:

 現状、ダンジョン内で見つかっているモンスターのうち、最弱とされる。知能が低く、動きも鈍重である。


 戦闘:

 特に有効な攻撃手段は持たず、一応は体当たりを繰り出すが、動きが遅いため、相手に当たることは滅多にない。体内にあるコアを破壊すれば、体を保てなくなりゲル状になって絶命する。コアの強度自体も脆いため、バールのような物でも破壊できる。


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 改めて見ても弱い。ネットでは小学生でも倒せるとまで書かれてるしな。


 俺は近づいて来た個体にクラブを振り下ろす。トプンとヘッドが体内に沈み、その勢いのままコアを叩いた。たちまち砕け、スライムの体は自壊する。


「けど随分と居るな」


 遅れてまた1匹、その後ろにもズラッと居並ぶのが見える。囲まれない地形はありがたい。いくらスライムといえど、8匹に8方向から同時に体当たりなんかされたら、避けられないだろうしな。


 そこからは無心にクラブを振り続けた。1匹倒すとすぐに次の個体が詰めてくる。なんだろう、ゲームのダンジョンでもたまに見る光景だけど、まさか自分がやる羽目になるとはな。ただこういう時、ゲームだと知らない間に通路の後ろからもモンスターが来てて、挟み撃ちにされたりするんだよな。


「……」


 チラッと背後を振り返る。来た道、石造りの通路が遠くまで見渡せた。

 安心して一つ息を吐くと、スライム退治に戻る。

 そこから更に10体以上倒し……


 ――ボコン!


 ジェル状の体内でコアを打つ音。コイツで最後だ。


「ふう、はあ、はあ」


 力強くクラブを振るだけ、とは言え。20回以上やれば息も上がる。腕もパンパンだ。


『新田拓実のレベルが3→4になりました』


 おっ! 頑張った甲斐があった。


『スキル:ダンジョン農園のレベルが1→2になりました』


 スキルのレベルも上がったみたいだ。早速確認。




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 <ダンジョン農園LV2>


 亜空間に存在する農園を任意の場所に呼び出すスキル。農園では様々な素材を土に植え、独自の作物を育てることが出来る。

 発現時、更に細かな位置調整が出来るようになった。

 初期に設定したダンジョン以外でも発動が可能となった。


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 お、おう。ということは、今この瞬間にも出せるということか。細かな位置調整というのは、例えば、あのデカキノコの下あたりに照準を合わせて展開なんてことも出来るのかな。


「ちょっとやってみるか」


 とは言え、半信半疑なところがあるので、一計を案じる。

 俺は望むロケーションを求めて、既に通過した曲がり角のところまで戻る。角を平仮名の「く」の字に見立てた時、凹んでいる所に背をつける姿勢を取る。角に嵌るような感じだ。そのまま石壁の段差を探す。「く」の字の両辺の同じくらいの高さに段差を見つけて、背を凹みに預けたまま両足を乗せたいのだ。


「お、いけそう」


 運良く、左右同じくらいの高さの所に足を置けそうな出っ張りがあった。順に足の裏を乗せると、目論見通りの姿勢を取ることが出来た。手は突っ張るように両辺を押している。しんどい。


「だ、ダンジョン農園展開」


 そのまま床面に展開するイメージで発動。石畳に、人が1人通れるくらいの穴が開き、その下には土の地面が見えた。あ、成功っぽいね。


「展開終了」


 穴がスッと消える。恐る恐る足を下ろし、その場に立ってみるけど、いきなり開いたりとかもない。まあ冷静に考えれば、俺のスキルなんだから、基本は俺に利する物であるハズなんだよね。ナビの嫌がらせとかあって、どうも猜疑心が強くなりすぎてるのかも。


「取り敢えず……今日のところは帰ろうか」


 レベルも上がったし、ダンジョン農園にも安全に行けるようになったし、初日としては十分な成果だろう。

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