第13話:大草原兄さん
進化スライムが水のように草地に溶け込んだ後には、ヒビの入ったエメラルドグリーンのコア。そして体の中に取り込んでいたのか、金色の草が落ちていた。キラキラと本当の純金みたいに輝いてる。
「鑑定してみるね」
スキルを起動。と、
『スキル:鑑定のレベルが1→2になりました。アイテムの相場価格も表示されるようになりました』
ナビの声が届く。ああ、使った回数で経験値のパターンもあるのか。戦闘だけ繰り返しててもスキルのレベルが上がらない時は、使用回数を稼いでみるのも手、ということか。いやまあ、だから、またダンジョンに来る可能性は微妙なんだけどね。
「どうですか?」
「ちょっと待ってね。今、スキルのレベルが上がったみたいだから」
まあまとめて確認するか。
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名前:進化スライム
レベル:5
素材:進化スライムのコア
備考:
体内に取り込んだ物質を進化させる能力を持つ。生物は進化させることは出来ない。やや内向的な性格。人と話さなくていい門番の仕事は適職だと思っている。
戦闘:
主に近接戦闘のスタイルをとり、攻撃を受ける際は体を硬化させて凌ぎ、反撃に転じる際は硬化させた拳などを繰り出してくる。攻略に関しては、体を削ってしまい、硬化させるだけの余力を奪うか、遠距離武器などで死角から狙い撃つのが効率的。
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なるほど。戦闘という項目は実際に戦ってみないと記録されないのか。戦う前から鑑定で分かれば楽なんだけどな。或いはレベルが上がれば、そんな進化もするんだろうか。
ちなみに性格とか書いてるのは何なんだ? 俺に罪悪感を覚えさせるナビの嫌がらせの線が濃そうだな。反応したら負けだ。
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<進化スライムのコア>
進化スライムから採れるコア。体色と同じエメラルドグリーン色をしている。農業などの素材として使え、配合する他の素材の効果や特徴を何倍にも促進させる。
非売品。
<特上薬草>
最上級クラスの薬草。重傷を治す。また多種の病気にも一定の効果が望める。かなり希少なアイテムで、市場では高値で取引される。
時価600万円。
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ろ、ろっぴゃくまんえん。この金ピカの草が、600万円。コアの方も色々と気になること書いてたけど、それら全部ふっ飛んだ。
「な、菜那ちゃん、大変だ! この草、600万円もして草!」
「落ち着いてください、兄さん」
「分かってるけどさ。600万円だよ。菜那ちゃんの学費を余裕で賄えるよ」
「……こんな時まで、私のことなんですね」
小さな声で呟くものだから、よく聞き取れなかった。まあいいや。いつも我慢してるだろう服や化粧品も買ってあげられる。望外の臨時ボーナスだ。
「さて。それじゃあ、扉をくぐってみようか」
折角の600万円も、持って帰れないんじゃ意味がない。この扉がダンジョンの外に繋がっていることを願いながら、
「じゃあ開けるよ」
ノブに手をかける。テンション爆上がりのせいか、何もかも上手くいくような気がしていた。
そして扉を開けた先、来た時と同じような石畳の通路。更にその奥に昇りの階段を見つけた。どうしても落ちてきた印象が強いモンだから、昇り=出口と考えてしまう。
「菜那ちゃん! 階段だ! 出口かも!」
とんでもない事に巻き込まれたけど、禍福はあざなえる縄の如し。まさかのレアアイテム(600万円)お持ち帰りだ。もうあの階段を上れば。
「ちょ、ちょっと兄さん!」
「菜那ちゃん、あとチョットだよ!」
階段を駆けあがる。なんと空が見えた。墨を塗ったような漆黒の中に、点々と星の光。
握りしめたままの金の草が、手の中でフワリと揺れた。風も吹いてきてる。本当に出口だ。帰れる、帰れるんだ。
そして遂に。
最後の1段を上りきり、左足が踏みしめたのは明らかに今までの石階段とは違う地面。土だ。
「菜那ちゃん、やっぱり」
出口だよ、と。振り返って、そう言おうとした。だけど、
「……っ!?」
上ってくる菜那ちゃんの後ろ。何かが居る。黒いマントを羽織った、人型の……
「な、菜那ちゃん!」
俺の声に彼女も後ろを振り返った。俺も元来た階段を駆け下りる。草を強引にポケットに突っ込み、両手でクラブを握りながら。
「きゃ、きゃあああ!!」
菜那ちゃんの悲鳴。頭に血が上る。
「離れろおお!!」
菜那ちゃんを追い越し、その下の段にいるソレにクラブを振る。その時になってようやく、ソレの全貌が見えた。黒いマントと黒い面。面には模様が入っている。銀の時計の針だろうか。3本の長短の針がバラバラの方向へ伸びている。
ビュンとクラブが風を切る。蜃気楼のようにソレの姿が掻き消えていた。
「兄さん、下です!!」
菜那ちゃんの鋭い声に、俺は慌てて階下を見た。もう10段ほど下に、ソレは居た。
スキル:鑑定を使う。
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名前:時空の守神クロノス
レベル:999
素材:???
ドロップ:???
備考:???
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レベルが……とんでもない。不意に菜那ちゃんが言っていたエンジェルラックの話を思い出す。レベルが100も違う相手に勝てるとか、そこまで強力なスキルではない、と。つまり1000近く違う相手なんて、奇跡的な幸運があっても無理だということ。
俺たちは……出口間近で、一転して絶体絶命の危機を迎えていた。
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