第7話:大穴兄さん
「おっ! ゴルフクラブがある!」
再び物置へと戻り、中を物色。武器になりそうな物を見つけ、少し安心する。
長靴や鉈もあったが、ボツ。長靴はぬかるんだ場所があった時に取りに戻るという事で携行はしない。鉈に関しては、取り扱いに慣れてない俺たちが振り回すとフレンドリーファイアしそうなので却下。あとは懐中電灯も見つけたが、電池が怪しくて、点いたり消えたりするので、結局レギュラー入りは断念。突然、洞窟内の謎灯りが消えることがないよう祈るばかりだ。
「しかし不思議ですよね。私たちと同じく、庭から落ちてきたなら、地面との衝突時にとんでもない轟音がしてるハズなのに」
「ああ。というか、それならそもそも原型自体、留めてないよな」
多分なんだけど、生成時に巻き込まれるにも、色んなルートがあるんじゃないかと。この物置は落下ではなく、例えばゆっくり飲み込まれた、とか。あくまでイメージだし、そもそも仮説の域だけど。
そういう話を菜那ちゃんにもしてみると、なるほどと頷いた。そして彼女は天井を見上げる。
「この洞窟? みたいな場所に満ちてるオレンジの光も、どこか人工的ですよね。電灯を取り込んだんでしょうか?」
「ああ、俺も不思議に思った。けどまあ……」
「考えても分からないですね」
そういう事だ。それに今は、学術的好奇心みたいなのは後回しだ。俺たちはダンジョンの謎を解き明かしに来たんじゃない。生成現象に巻き込まれた、ただの一般人なんだから。
「さっきの看板。ダンジョン農園ってありましたけど……ここは厳密にはダンジョンじゃない可能性もあるんですよね?」
「そう……かもね。何一つ断言できる状況じゃないけど」
「はい。でも最悪、ダンジョンの法則、出入口が必ずある、というそれも……」
当てはまらない可能性もある、と。考えたくはないが。
「もしそんな感じだったら……俺のスキルを解除すれば、今度こそ普通のダンジョンになる、という可能性も」
可能性、可能性、可能性。そればっかりでイヤになるけど、そんな状況なんだから仕方ない。
「でもそれを試すのは、ここで出口を見つけられなかった時にしましょう」
「うん、賛成。今の状態、落下の途中で、この農園に引っ掛かって助かったという可能性もある。なのにそれを解除しちゃうと……」
またフリーフォールに逆戻りはシャレにならん。
「じゃあ、方針は決まりましたね」
「うん。まずはここの探索だね」
ということで、それぞれ父親の遺品であるところのゴルフクラブを持ち、いざ出発。
「……」
「……」
歩くこと10分ほどだろうか。岩の壁に辿り着いた。洞窟は長方形に近い形をしているようで、こっちは短い辺の方にあたるようだ。向こう側、長い辺は倍くらいかかりそう。
「今度はあっちの端へ行ってみようか」
「はい」
そしてまた黙々と歩き続ける。土の感触も、空気の心地もやっぱり俺たちの住む日本と何ら変わらない。
モンスターの奇襲を常に頭の片隅に置きながら、妹の歩幅を考慮して。そんな感じだからか、20分以上歩いたような気がする。正確なところは分からない。スマホは無いし、俺も妹も腕時計はしない派だから、計時できる物が何もないのだ。
「……」
「……」
また変哲の無い岩壁に突き当たった。
これは思った以上に心にクる。洞窟を6等分くらいで考えた時、もうおよそ3割程度を歩いた計算になる。帰還の可能性を自ら塗りつぶすマッピング作業と言えば、暗澹とした気持ちは伝わるだろうか。
「まず四隅を潰しましょうか」
「そう、だね」
更に口数少なく、歩きはじめる。というか、遮蔽物が無いに等しいため、岩壁沿いに進みながら、中央側を見ると何も無いのも分かるので、実質、こちら側の壁際に何も無かったら……
絶望が頭を埋め尽くし始めた、その時だった。前方数メートル先。地面に開いた穴を発見した。
「……っ!」
立ち止まると、すぐ後ろをついて来ていた妹が俺の背に軽くぶつかった。
「何かあったんですか?」
彼女も平静なようで、声が弾んでいる。俺の背から横にずれ、前を覗き込んだ。
「穴、ですか」
「うん。ゆっくり慎重に近づいてみよう」
そう言いながら、俺は先んじて動き出す。忍び足で進みながら、クラブの持ち手をギュッと握る。やがて穴の端に到達した。傍の地面に杭が打ち込まれていて、そこに結ばれたロープが、そのまま穴の中へ垂れ下がっているようだ。
「これは……」
なんとこれ見よがしな。罠か、はたまた。
「兄さん。立て看板が倒れてます」
穴の逆サイド。菜那ちゃんが指さす先、木板と棒だけで作られた質素な看板が転がっている。近づいて見てみると、
『農園ダンジョン入口』
とあった。
「ダンジョン農園の中にある、農園ダンジョン」
「なんか……言葉遊びみたいだな」
結局ここはダンジョンじゃないという認識で良いんか?
「しかし……どうしましょう」
「そうだなあ。まあ他に道がないか、農園内を隈なく調べて……」
「なければ行くしか……ないんですかね」
言いながら、二人とも他に道があるような気は更々してなかった。
そして約1時間後。案の定、再び穴の傍に戻ってきた。まあ当然のように、他には何もなかったよね。
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