第29話 隣で笑っている舞葉

 翌日の朝、俺と舞葉は一緒に目を覚ますと、それぞれ学校に行くための制服に着替え、一緒に舞葉の作ってくれたオムライスを食べていた。


「美味しい」

「今日はいつもより料理に集中できなかったら味ちょっとだけ心配だったけど、飛隣が美味しいって言ってくれるんだったら良かったよ」

「集中できなかった……?」


 俺がそう聞くと、舞葉は頬を赤く染めて言った。


「昨日の飛隣と過ごした夜のこと考えちゃって……!」


 舞葉は恥ずかしさを隠すように、それを言うとすぐにオムライスを口に含んだ。

 朝起きてから今に至るまで、俺と舞葉の間でなんとなく昨日の夜のことは触れていいのかどうか互いに様子を見ているといった感じだったが、舞葉の方からその話題をしてくれたので、俺もそれと同じ話題を話す。


「そういうことなら、当たり前だけど俺だって考えた」

「そ、そうだよね……!?良かったぁ、私だけじゃなかった……あの時間思い出したら、目の前に料理にいつもより集中できなかったよ」

「そうか……昨日の夜は、文字通り俺だけの舞葉っていうか、俺たち二人だけの時間を共有できて、互いの気持ちを身も心も伝え合えて、とても良い時間だった」

「わ、私も!私だけしか見られない飛隣のことを見られて、私たちだけの時間を一緒に過ごせて、私が飛隣のことを好きって気持ちを伝えられたし、飛隣が私のこと好きなんだってことをちゃんと感じられて……本当に、良い時間だったよ……忘れられない」


 その後、俺と舞葉はしばらくの間喋らずにオムライスを食べていると、舞葉が少し恥ずかしそうにしながら言った。


「べ、別に、あれが最後ってわけじゃないから、もし飛隣が望むんだったら……じゃなくて、私が飛隣とあの時間一緒に過ごしたいから、また過ごしてね!わ、わかった!?」

「わかった、俺も互いの気持ちを深く理解し合う時間は大事だと思うからな……それにしても、前と比べると本当に素直になったっていうか、思っていることを遠回しじゃなくて直接的に伝えてくるようになったな」

「……恋人に遠回しで何か言う必要なんてないから!……どこかの誰かさんが変な勘違いして私のこと恋愛対象外とかにしなかったら、もっと早くこんな感じで距離感近くなってたかもしれないのにね〜」

「だ、だから、それは悪かったって言ってるだろ?いつまで引っ張るんだ?」

「ずっと!」

「ずっと!?」

「だってそのせいでどれだけ私が困ったと思ってるの!?」

「それは……悪かった」


 俺が素直に謝ると、舞葉は小さく笑いながら、オムライスをスプーンで掬うと俺の口元に差し出して言った。


「今は私の恋人だから許してあげる、はい、あ〜ん」


 俺はその差し出されたオムライスを口に含んで、しっかりと噛んでから飲み込んだ。


「私の愛情、ちゃんと感じた?」

「感じた」

「じゃあ今度は、飛隣の愛情教えて?」


 舞葉と同じことをすれば良いのかと判断した俺は、今握っているスプーンでオムライスを掬おうとしたが────舞葉の手が、俺のスプーンを握っている手を握ってその動きを止めてきたため、それができなくなった……それに対して舞葉に疑問を呈しようとしたが、舞葉が待ち焦がれているとでも言うように目を閉じていたため、俺は舞葉が何を求めているのかを理解した。

 もはや今の俺たちにとって、愛情を伝えるのに言葉は要らない────俺は舞葉の唇に自分の唇を重ねて思う。

 この愛すべき存在と、触れ合っている……それだけで、俺たちは互いに愛情を感じることができる。


「朝から飛隣にキスされちゃった……私も飛隣にしてもいい?」

「あぁ」


 そう言うと、舞葉は俺に唇を重ねてきて、今度は舞葉からの愛情を強く受け取った。


「……どうしよ、今日遅刻しちゃうかも」

「今まで学校にはいつも一緒に登校してきて、一度も遅刻したことなかったのに、か?」

「飛隣が悪いんだよ?こんなに私のこと好きにさせたんだから」

「それなら舞葉も悪いな、俺も舞葉のことを好きにさせられたからな」

「……本当に遅刻しちゃうかもしれないから、私が我慢できなくなる前に玄関行こっか」

「わかった」


 その後、俺と舞葉は学生鞄を持つと、一緒に玄関まで出て靴を履いた。

 そして、俺が玄関のドアに手をかけた時、舞葉が後ろから俺の肩をトントンとしてきたため振り返ると────キスをされた。

 そして唇が離れると同時に、俺はふと小学生の頃を思い出した。


「飛隣!早く行かないと遅刻しちゃうよ!」

「まだ眠い……けどわかった」


 ……あの時の俺たちは、互いのことを好きになって恋人になるとは夢にも思っていなかっただろう。

 だが、今は────


「はい!朝はこれで我慢する!じゃあ登校しよ!!」

「あぁ、行こう────」


 やられただけで終わるわけにはいかなかったため、俺はしっかりと舞葉にキスを仕返してから、玄関のドアを開けた。

 舞葉は「もう……!」と言いながらも、頬を赤くして俺と一緒に家の外に出た。


「飛隣!右手出して!」

「わかった」


 俺が舞葉に言われた通りに右手を出すと、舞葉は左手を出して、俺と手を繋いだ。

 俺と手を繋いだことで嬉しそうな顔をしている舞葉と、楽しく雑談をしながら一緒に学校に登校する。

 長い間、俺たちは互いに表面上では気持ちを隠したり、色々な勘違いをしてしまったりもしたが────今は互いのことをこれ以上ないほどに愛し合えている。

 俺はこの気持ちを生涯胸に抱き続けることを、今俺の隣で笑っている舞葉に胸の中で誓った。

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