第28話 長い夜を過ごす二人

 今、ベッドの上で舞葉に抱きしめられている俺は、ハッキリ言ってかなり困惑していた。

 お風呂の時に今までにない雰囲気が漂っているのは感じていたが、それはあくまでもお風呂という互いに服を着ていない場所だからだと思っていたからだ。

 だからこそ俺はリラックスして、明日の学校に備えるために早く寝ようとしていたのだが────お風呂上がりの舞葉が俺の部屋に入ってきた瞬間、眠気は吹き飛んで困惑と驚き、そしてその舞葉の色っぽさに思わず見惚れてしまっていた。

 もし舞葉のことを恋愛対象外としていた俺なら、ベッドの上で舞葉に抱きしめられているこの状況下でも、おそらく特に気にした様子もなく眠れたと思うが、今の俺は舞葉のことを異性として魅力的に感じているし、異性として好きだ。

 そんな状態でこんなことをされて────眠れるはずもなく、俺と舞葉は、しばらくの間静かな時間を共にした。

 そして、もしかしたら俺が意識のしすぎで、舞葉はもう眠っているのかもしれないと思い始めた頃、舞葉は口を開いた。


「飛隣……起きてる?」

「……あぁ、起きてる」

「良かった、飛隣のことだからうっかり寝ちゃってないかなって心配だったの」

「この雰囲気で舞葉に抱きしめられて寝られるほど、俺は舞葉に対する恋愛感情が小さい覚えはない」

「嬉しいこと言ってくれちゃって……本当、人って変わるよね、初めて飛隣と会った時は、まさか飛隣のことをこんなに好きになって、ベッドで飛隣のことを抱きしめることになるなんて思ってもなかったよ」

「……俺も、子供の頃は落ち着いた感じの女の人が好みだと思ってたのに、まさかその対義語みたいな舞葉のことを好きになるとは思わなかった」

「何それ〜!私に落ち着きがないって言いたいの?」

「そうだ」

「もう!」


 舞葉はそう声を上げると同時に、俺のことを抱きしめる力を強めた。

 そして、今度は小さな声で、だが揺るがない声で聞いてきた。


「飛隣……ずっと、私の隣に居てくれる?」

「あぁ、ずっと隣に居る」

「私が空まで飛んでいっても?」

「飛んでいってもだ」


 俺がそう答えると、舞葉は俺のことを抱きしめるのをやめると、上体を起こした。

 それに合わせて、俺も上体を起こす────すると、その瞬間に、舞葉は一瞬俺の唇と自分の唇を重ねた。

 だが、すぐに唇を話して言う。


「飛隣……好きだよ、本当に……飛隣さえ居てくれるなら、私他に何も要らないよ……でも、キスだけじゃ、私が飛隣のことを好きだっていうこの気持ちに、全然追いついてくれない……もっと、もっと飛隣とこの気持ちを共有したい」


 すると、舞葉が頬を赤く染めながら言った。


「だからね、私……飛隣と一つになりたい……ずっと飛隣の隣に居られるように」

「……そうだな」

「……私だけの飛隣が見たい、私だけが見られる飛隣」


 そう言うと、舞葉はキャミソールを脱いだ。

 舞葉がキャミソールを脱いだことで、舞葉は下着姿になる。


「私だけの飛隣、見せてくれる?」

「あぁ……俺にも、俺だけの舞葉を見せてくれ」

「うん、飛隣だけだよ……この夜は、私が飛隣のことを好きって気持ちが今以上に伝わるまで、飛隣のこと寝かせてあげないからね」

「全部伝えるのに、どれぐらいかかるんだ?」

「そんなの、何時間あったって伝えきれないよ……だから、今日から少しずつ伝えて行くよ」

「……そうだな、俺も少しずつ伝えていく」


 そう言うと、俺と舞葉は互いに抱きしめ合って、唇を重ねた。


「飛隣……」

「舞葉……」


 その後、体を重ねることで、今まで以上に互いの気持ちを共有することができて……言葉通り、俺たちは身も心も一つになることができたという実感を感じながら────その夜、俺と舞葉は今までにないほど互いのことを求め、長い夜を互いに愛し合った。

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