第21話 見空飛隣のことを好きな新天舞葉
「あ、来た来た〜!もしかしたら来てくれないかもって不安だったんだよね〜」
「気分良くなくても時間取ってもらった以上ドタキャンなんてしませんよ」
「ま、舞葉ちゃんが真面目発言してる……!」
監督はあの舞葉が真面目なことを言っていることに驚きながらも、すぐに切り替えて言った。
「じゃあ行こっか」
「行くって、どこにですか?」
「う〜ん?このショッピングモールで服見たりアイス食べたり?」
「……そんな気分じゃ────」
「監督権限で気分なんて度外視だから!」
監督は舞葉の背中を無理やり押すと、舞葉のことをショッピングモール内に入れて、その成り行きで舞葉はとてもそんな気分では無かったが、一応監督と一緒にショッピングモールを歩いて回ることにした。
「この服なんて舞葉ちゃんに似合いそうじゃない?着てみる?」
そう言って監督が舞葉に見せた服は、お腹が見える感じのダンサーさんがよく着ていそうな服だった。
「飛隣はそういう露骨に露出してるのとかじゃなくて、意図してないけど見えるみたいなのが好きだと思うので着ません」
「わっ、細かいね、じゃあこっちは?」
もう一つ監督が見せたのは、首元が緩い感じの服で、体勢を少し低くしたら胸元が見えてしまいそうな服だった。
「それは飛隣が目のやり場に困るとか思って私のこと見てくれなさそうなので嫌です」
「さっきから飛隣飛隣って、私舞葉ちゃんに似合いそうな服って話してるんだけど?」
「飛隣が私のこと見てくれるなら私に似合ってなくても着ます……大体、こうやって一緒に服を見たりするのだって、本当なら監督とじゃなくて……」
舞葉はその言いかけた言葉を飲み込んで、言うのをやめた。
だが、監督は一瞬鋭い目を舞葉に向けてから言った。
「私とじゃなくて、何?」
「……」
舞葉は、それに答えてしまうとその理想が叶わない現実との違いに苦しんでしまうことがわかっていたため口にしなかったが、監督は服を元あった場所において言った。
「舞葉ちゃんは、飛隣くんとこういう楽しいことをしたいんだよね?」
「っ……!」
「でも、どうしてそれを口にしないの?」
「それは……ちょっと、場所変えたいです」
「いいよ」
舞葉はそれを監督に伝えるかどうか悩んだが、やはりこの感情をどこかに吐き出したいという気持ちと、たまに頼れる監督に相談をしてみたいと思ったため、ショッピングモールの屋上、人の居ない端の方にあるベンチで、舞葉が今置かれている状況を説明することにした。
「監督はもう気づいてると思いますけど、私飛隣のこと好きなんです……異性として」
「それはもう初めて飛隣くんの話聞いた時から気づいてたよ」
そんなに早くから気づかれていたことに舞葉は少し驚いたが、続けて話し始めた。
「……でも、飛隣には好きな女の子が居るそうなんです、その女の子のこと以外を好きになることは今も考えられないって」
「うんうん、なるほどね〜」
「それで、その子は小学校も中学校も高校も同じそうなんですけど、今までずっと飛隣と一緒に居たはずなのに、私飛隣がそんな女の子と関わってるところなんて見たことなかったんです」
「……ん〜?」
監督は頭にクエスチョンマークを浮かべたが、舞葉は気にせずに続けた。
「飛隣は何年も前に諦めたって言うんですけど、その割にはその子のこと以外を好きになるのは考えられないとか言ってて……」
「え、何これ、もしかして遠回しな甘酸っぱい青春を私に自慢してるの?」
「茶化さないでください、私は飛隣の気持ちがわからなくて真剣に悩んでるんです」
舞葉は少し怒ったように言ったが、監督の方は一気に興が冷めたように言った。
「色々言ってても、やっぱり舞葉ちゃんも飛隣くんと似てるね〜」
「似てる……?私あんなに鈍感じゃ────」
「勝手に舞葉ちゃんに伝えちゃうのは飛隣くんに申し訳ないけど、前に飛隣くんが舞葉ちゃんには夢があるから、舞葉ちゃんに恋愛感情を抱いたりするわけもないし、できるはずもないって言ってたよ」
「……私に夢があるから、私に恋愛感情を抱けないし、恋愛感情を抱くこともできない……?」
「舞葉ちゃんの夢の邪魔になるって思ったんだろうね」
「……すみません監督、私ちょっと用事できました」
「うん、頑張って」
監督は笑顔でそう言うと、舞葉は怒りを胸に────見空飛隣の家に向けて走り出した。
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