第20話 落ち込んでいる新天舞葉
「飛隣……」
土曜日の朝、新天舞葉は、昨日見空飛隣が言っていた「強いていうなら────その特定の異性っていうのが、俺にとっての好きなタイプだ……その異性以外に対して、何か特別な感情を抱いたりすることは、少なくとも今の俺には考えられない」という言葉を思い出して、酷く落ち込んでいた。
確かに、もし飛隣に好きな相手が居たんだとしたら、飛隣はその相手以外見えない……そのぐらい誠実で優しい心の持ち主であることは、誰よりも飛隣のことを一番近くで見てきた舞葉にはわかっていた。
「でも、どうしてそれが私じゃないの……?」
舞葉は、飛隣に好きになってもらうために、様々な努力をしてきた。
容姿を整えて、ファッションやヘアアレンジの勉強をして女優として人気になって、今では『可愛くげ演技が上手い女子高生女優ランキング』で『第一位』を取るほどに魅力を高めた……だが、それも全ては飛隣のため。
「飛隣が私のこと見てくれないんだったら、どんなランキングで一位取ったって……意味ないじゃん」
今、舞葉が考えられる選択肢は二つだった。
一つ目は、飛隣のことを忘れて次の新しい恋に進むこと……二つ目は、このまま飛隣への気持ちを隠し続けて幼馴染のままで居ること。
「一つ目は……絶対無理」
失恋を忘れるためには次の恋に進むのが最適という意見があるが、舞葉はそれを実行するためにはあまりにも長くの年月を飛隣に費やしすぎていた……その年月は十年以上。
少し気持ちを切り替えたぐらいで忘れられるほどの気持ちではなかった。
あと、残ったのは二つ目……飛隣への気持ちを隠し続けて、幼馴染のままで居ること。
「これは……今までだってずっとそうしてきたんだし、耐えられないわけじゃない」
だが、舞葉は未来を考えた。
飛隣が自分以外の誰かと恋愛して、少しずつ親密になっていき、最後には結婚して居る未来……
「飛隣がそれで幸せなら────なんて、思えるわけない……」
それが、舞葉の嘘偽りのない気持ちだった……だが、実際問題、飛隣は自分以外の特定の誰かのことを、これ以上ないほどに好きだと言う────が、それと同時に、思い出したこともあった。
「飛隣、何年も前に、その恋を諦めたって言ってた……そんなに好きなのに、どうして諦めたんだろ」
舞葉は色々と考えてみるが、結局それらは想像の域を超えなかった。
「諦めてたとしても、飛隣がその子のことまだ好きなら……私に入る余地なんてないよね……幼馴染としてだけじゃなくて、恋人としても、飛隣と色々なことを一緒に経験していきたかったけど……それはもう、叶わな────」
舞葉がそう呟こうとした瞬間、舞葉のスマホから着信音が鳴り、舞葉はすぐにそのスマホを手に取った。
「飛隣!?」
飛隣からの電話だと思った舞葉だったが────
『監督』
「……」
その着信相手を見て、一気に感情は元通り……下手したら元より下がってしまった舞葉は、気分を落としながらも一応仕事相手ということで電話に出た。
「……はい、なんですか」
「え?なんか暗くない?」
「今仕事とかって気分じゃないので早く要件だけ教えてください」
「軽く月曜日の予定だけ伝えようと思ったんだけど……変更、舞葉ちゃん、今から街出れる?」
「私今日オフ────」
「どうせそんなに暗くなってるの、飛隣くん絡みなんでしょ?」
「……」
舞葉は、自分のことが見透かされていることに少し驚き、本来なら監督と土曜日を過ごすつもりなんてなかったが、この感情をどこかに吐き出したいという気持ちも少なからずあったため、舞葉は口を開いて言った。
「何時にどこに行けば良いですか」
「ん〜!素直でいいね〜!スタジオ近くのショッピングモール前に、今から二時間後でどう?」
「……わかりました」
舞葉は監督に言われた時間に間に合うように今から身支度をして家から出た……そして、スマホを開くと身支度をしていた間に飛隣からメッセージが来ていたことに気づき、そのメッセージを開いた。
『昨日は体調が悪くなったみたいだったけど、もし看病が必要ならいつでも言ってくれ』
「っ……!飛隣……」
その優しさが棘のように痛かったが、舞葉は飛隣に心配をかけないために『ううん!全然大丈夫だよ!』と返信して、監督との待ち合わせ場所に向かった。
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