第19話 気分の悪い幼馴染

「う〜ん……」


 朝、学校に登校している最中、舞葉は唸り声を上げながら周りに居る俺たちと同じ制服を着た生徒たちを観察していた。

 ……最近舞葉はずっとこんな感じで、登校中や学校に居る時間は、何かと他の生徒を気にするようになった。


「舞葉、何か悩み事でもあるのか?」

「悩み事っていうか……う〜ん」


 結局、その問いの答えは得られないまま、俺と舞葉は一緒に学校に登校して、今日も一日学校での一日を過ごした……そして、放課後になって舞葉と一緒に下校していると、舞葉は言った。


「ねぇ飛隣、今日飛隣の部屋行ってもいい?」

「俺の部屋……?良いけど、何するんだ?」

「ちょっと……ね」


 何か意味があるような雰囲気だったが、舞葉のことを部屋に入れるのを断る理由なんて俺にはないため、そのまま舞葉と一緒に下校すると、舞葉のことを家に上げて俺の部屋に入れた。

 そして、俺の部屋に入った直後、舞葉は何故か俺の部屋の本棚を見始めた。


「舞葉……?」

「……」


 だが、求めているものはなかったのか、舞葉は観念したように一度ため息をついた。


「飛隣って、モデル雑誌とか持ってないの?」

「持ってない」

「じゃあ私以外に知ってる女優さんとかは?」

「名前と顔がわかるぐらいの人は居る」

「その中で好きな人は?」

「特別好きっていう人は居ない」

「……はぁ〜」


 舞葉はもう一度、今度はさっきよりも大きくため息をついた。

 そして、舞葉は呆れたように言う。


「クラスの男の子とか、みんな大体女優さんだったりアイドルの人だったり、とにかくそういう有名人とかで好きな女の子が一人は居る感じなのに、飛隣は全くそういうの無いって……私ちょっと心配になってきたよ」


 隣に舞葉が居るから特にそう言った人に興味を持つ理由がない、と思ったが、それを口に出すのは恥ずかしくてできなかった。

 ……それよりも気になることがある。


「どうして俺の部屋からモデル雑誌とかを探したり、俺から好きな女優さんを聞き出したりしようとしたんだ?」

「……飛隣の好きなタイプが知りたくて」

「タイプ……?」

「……女の子の、好きなタイプ」


 舞葉は少し顔を赤くしながらそう言った。

 タイプ……タイプか。


「特にないな」

「そうやって隠すに決まってるってわかってたからモデル雑誌とか探した方が早いって思ったの!」

「隠してるんじゃない、本当にないんだ」

「へ〜?じゃあテレビとか見てて、この人可愛いって思ったことないの?」

「容姿が整ってるとか綺麗とかは思ったことがあるけど、可愛いとか、それこそ好きとかって思ったことはないな」

「でも、色々と要素あるじゃん!例えば、身長高いとか、体が細いとか、胸大きいとか!そういうので一つぐらい好きなのはあるでしょ?」

「……前に、俺にも一緒に居て楽しいとかこの先もずっと一緒に居れたら楽しいだろうなって思う相手が居るっていう特定の異性が居るって話はしたよな」

「してたけど……それが?」

「強いていうなら────その特定の異性っていうのが、俺にとっての好きなタイプだ……その異性以外に対して、何か特別な感情を抱いたりすることは、少なくとも今の俺には考えられない」


 俺がそう言うと、舞葉は目を暗くして、足元をふらつかせた。


「舞葉……?」

「そ、そうなんだ……そんなに、その子のこと……」

「だ、大丈夫か?顔色が────」

「ちょっと気分悪いから、今日は帰るね……また明日」


 舞葉はひどく落ち込んだ様子でそう言うと、足元をふらつかせたまま俺の部屋から出て行った。

 だが、そんな状態の舞葉を一人で帰らせるわけにはいかないため、俺は階段ではしっかり舞葉のことを支えて、外に出てからも、目の前だがしっかりと舞葉の家まで舞葉のことを送り届けた。

 あんなに暗い顔をした舞葉を見るのは、もしかしたら初めてかもしれないが……その原因がわからない以上、俺にはどうすることもできなかった。

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