第18話 鈍い幼馴染

「そういえば、この間私に初恋の相手が居るって話したけど、飛隣は恋とかしたことあるの?」


 昼食の最中、舞葉は小学生が路傍にある石をなんとなく蹴るような感じで適当にそう聞いてきた。


「まぁ、飛隣の精神年齢はまだ恋愛とかできるほど高くなってないから、したことないと思うけど」


 そして、俺からの返答がわかっているとでも言うように、舞葉は昼食を口に含んで食べ始めた。

 ……恋、か。


「恋って呼べるのかはわからないけど、特定の異性と一緒に居て楽しいとか、この先もずっと一緒に居れたら楽しいだろうなって思うことはあったな」

「ん?……ん〜?……んん!?」


 舞葉は食べ物を口に含みながら、何度か俺の発言が理解できないといった反応を見せたが、最後にはとても驚き、思わず飲み込んだ食べ物を喉に詰まらせそうになっている様子だったが、どうにかそれを飲み込んでから言った。


「と、とと、特定の異性と一緒に居て楽しいと思って、こ、この先も、ず、ずっと一緒にって……ひ、飛隣が!?あの飛隣が!?」

「そんなに驚くことか?」

「飛隣なんて恋のこの字も知らないっていうのが常識でしょ!?」


 そんな非常識を勝手に常識にされていたとは……だが。


「確かに、恋なのかはハッキリとはわからない……でも、特定の異性に対して特別な感情を抱くことが恋っていうなら、それは間違いなく恋だったと思う」


 俺がそう言うと、舞葉は目を泳がせながら言った。


「へ、へえ〜?ひ、飛隣に好きな女の子とか居たんだ……そ、その子って同じ高校?」

「あぁ」

「嘘!?」


 舞葉はさらに驚いた様子で言った。


「飛隣が女の子と話してるところなんてほとんど見たことないし、休み時間も昼食も基本私と一緒のはずなのに……て、ていうか!その子どんな感じのタイプの子なの!?」

「そんなこと知りたいのか?」

「知りたい知りたい!今後の参考……じゃなくて、えっと……とにかく知りたいよ!ほ、ほら!も、もし飛隣が困ってるんだったら私もお、応援?とか、してあげたいし?一応その子がどんな感じの子かぐらいかは知っておかないと!」

「応援ってことなら必要ない、もう何年も前に諦めたからな」

「何年も……?高校も同じだけど、何年も前から会ってる子……ってことは、小学校も中学校も一緒の子?」

「そうなる」

「う、嘘……そんな前から飛隣が恋してる女の子が居たなんて……待って、現実感なくて頭クラクラしてきた……」


 舞葉は冷や汗をかきながらそう言って頭を抑えた。

 今まで、自分自身でも恋っていう認識をしてはなかったけど、少なくともこの感情は舞葉にだけは特にバレないようにしてきたから、舞葉にとっては驚くのも無理はないだろう……そう、夢を持っている舞葉にとって、俺の抱いていた感情は邪魔なものだ。


「で、でも、逆に考えたら飛隣にも一応異性っていう感覚があるっていう点では良かった、けど……それなのにここまで私に対してその感じを見せないってことは、もしかして私って異性としてかなり魅力ない……?う、ううん、ネガティブになったらダメだよ私……!せっかく飛隣が好きな異性が居るって言うんだから、そのことを利用して飛隣の好みとか聞いたりするチャンスなんだから……!」


 俺は俺で色々考えていると、舞葉は舞葉は色々と考えているようで、自分の思考を小さな声で呟いていた……何を言っているのかはわからなかったが、表情は決意の固まった表情をしていた……そして、俺に話しかけてくる。


「飛隣の好きな子って、やっぱり、その……か、可愛いの?」

「可愛いな」

「へ……へぇ、わ、私のことも前、か、可愛いって言ってくれたと思うけど……わ、私とその子、どっちが可愛い?」

「……それは────」

「新天さん!次体育だからそろそろ着替えに行かないと間に合わないよ!」

「え?あ、あ〜!うん!ありがと!」


 そんな声が掛かると、舞葉は急いでお弁当を布に包んで言った。


「ご、ごめんね飛隣!今言ったこと忘れて良いから!じゃあね!」


 そう言うと、舞葉は数人の女子生徒たちと一緒にこの教室を出て行った。


「本当に鈍いな」


 まぁ、今までバレないようにしてきたんだから仕方ないと言えば仕方ないか。

 そんなことを思いながら、舞葉と同じクラスの俺も当然次の時間は体育のため男子更衣室に向かった。

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