第17話 魅力を感じてほしい幼馴染
「舞葉……?」
舞葉は、怒ることはかなりの数であっても暗い顔をすることは珍しいため、俺は少し舞葉の様子を窺ってみる。
すると、舞葉はさらにその暗い表情のままで小さく呟いた。
「女優っていう、女の子らしさが一番高い仕事で人気になったら、その時こそ飛隣から幼馴染じゃない目で見てもらえると思ったのに……」
「何を言ってるか聞こえな────」
「……飛隣、観覧車行かない?」
「……え?」
「だから!観覧車!」
さっきまで暗い表情だったはずの舞葉は、突然明るい表情でそんなことを言い出した。
「別に、良いけど……どうしたんだ?いきなり」
「どうしたって、遊園地に来て観覧車乗らないとか有り得ないから!」
「……わかった、観覧車だな」
俺は、今脳裏に過ったことを忘れないようにしながら舞葉と一緒に観覧車に向かった。
観覧車はゴンドラの数に応じてグループで乗ることができるため、それほど並ぶことなく乗ることができた。
俺と舞葉は観覧車の座席隣になって座る。
「放課後の観覧車で、もう夕暮れだからちょうど日が沈むって、結構ロマンチックじゃない?」
「あぁ、そうかもしれない」
「飛隣、私たち……もう出会ってから十年以上経ったんだね……色んなことがあったけど、私と飛隣の関係性はずっと変わってない」
「当然だ、俺たちは今後も幼馴染として今まで通り何でも言い合えるような────」
「で、でもさ!私たちの関係は変わってないけど、私は結構変わったと思わない?」
舞葉が……変わった?
過去を遡ってみるが……
「変わってない、舞葉はずっと明るくて元気なままだ」
「性格じゃなくて!女優になったりとか、それこそこの前『可愛くて演技が上手い女子高生女優ランキング』で『第一位』に選ばれたりもしたし、見た目だってそれなりに整ってると思うし、スタイルと結構良い方だと思うんだよね!要するに、私の女の子としての魅力が高まったってこと!」
「女の子としての魅力……確かに魅力は高まったんだと思うし、容姿は整ってると思うけど、昔から舞葉を見てるからか舞葉のそういったところに魅力を感じたりは────」
俺には舞葉の言っていることをしっかりと認識することはできないということを伝えようとした時、舞葉は突然制服のボタンを外し始めた。
「ま、舞葉……?」
「飛隣が私のそういったところに魅力を感じないのは、飛隣が私のそういったところをちゃんと見たことがないからだよ!ちゃんと見てくれたら、絶対魅力的に感じてくれるに決まってるから!!観覧車って言っても一応外だから全部は脱げないけど、制服のボタンだけ外せば私が女の子として成長したことぐらいはわかるよね」
舞葉は、表情や声音は明るく振る舞いながらそう言った。
そして、今度は中に来ているシャツのボタンを外し始めようとした────が、俺はその舞葉の手を止めた。
「やめてくれ、舞葉らしくない……さっきから様子がおかしい」
「何がおかしいの?飛隣だって本当は、私の女の子らしいところ見たいって思って────」
「演技だ、観覧車に乗るって言い出した時から、舞葉は暗い表情をしてた自分を隠すために演技をしてる」
「っ……!」
舞葉は完全に図星を突かれたという表情をしていたが、すぐに口を開いて言った。
「おかしいのは飛隣の方だよ!どうして私の手を止めるの?」
「さっきも言った、舞葉らしくないからだ、俺はそんな状態の舞葉が、仮にどんな魅力的な見た目をしてたとしても何も思わない……それに、舞葉こそ今自分が何をしようとしてたのかわかってるのか?」
「わかってる、わかってるよ……でも!私らしくないって何!?私のこと何にもわかってないのに、飛隣にとって私らしいって何!?」
「仕事、人間関係、何に対しても変に曲がったことはせずに、真っ直ぐと向き合う……それが、俺にとっての舞葉らしさだ」
「っ……!……もう、飛隣のことなんて……だ、大嫌い」
「こんな時まで演技が下手だな、それで本当に女優なのか?」
「う、うるさいよ!」
少しいつもの舞葉に戻った舞葉に対して、俺は今ふと頭に浮かんだことを伝えることにした。
「舞葉……俺は、舞葉に演技をしてほしくない」
「……え?」
「女優業をやめてほしいって言ってるわけじゃない、仕事は仕事で演技をすればいいし、女優としての舞葉によって色んな人をきっと笑顔にしてる……でも、さっきみたいに、本当の自分を演技で隠したりするようなことはされたくない……十年以上一緒に居るんだ、俺たちはきっと、そんなことをしなくても向き合っていけるはずだ」
「飛隣……ごめんね、私、知らない間に飛隣のこと、傷つけてたんだね……でも、私だって……飛隣のせいで苦しい時もあるんだよ?」
「……なら、いつでもその苦しい原因を全部俺に言ってくればいい、それがどんなものだったとしても受け入れる」
「昔からずっと変わらない飛隣には、きっと受け入れられな────」
「なんだったとしても、受け入れる」
「本当、そういうところが……もう!」
舞葉は俺の胸元にしがみつくようにして顔を埋めた。
……とてもこの夕暮れの観覧車という雰囲気にあったロマンチックな雰囲気じゃなかったが、俺たちには夕暮れの観覧車なんて関係ない。
安心した顔で俺の胸元にしがみつく舞葉を見て少し嬉しくなった俺は、気がつくと少し頬を緩めていた。
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