第12話 素直に謝る幼馴染

 昨日喧嘩をしたばかりだが、こんな喧嘩中でも朝は一緒に登校した……やはり、長年の関係性は切っても切れないものがあるということだろうか。

 そして、学校に登校してからは、休み時間の最中舞葉が友達とかと話している間も定期的に俺の方をチラチラ見てきていたが、俺は舞葉がちゃんと謝ってくるまでは完全に気にしない態度を取っていた。

 そんな一日を送った放課後────ようやく、舞葉が俺に話しかけてきた。


「飛隣……その、今日も良かったら、私の撮影ついてきてくれない?べ、別に飛隣と居ないのが寂しいとかじゃなくて、えっと……ご、護衛のためだよ!ほら、もしかしたら一人で居たら何か危ない目に遭うかもしれないから!」


 喧嘩中と言うこともあって舞葉は気まずそうに言ってきたが、いくら喧嘩中と言っても舞葉が危ないからという理由でついてきてほしいと言っているのに、それを断ることはできない。


「わかった、ついていこう」

「っ……!ありが────……じゃ、じゃあ、早く行こうよ」


 俺にありがとうとお礼を言おうとした舞葉だったが、これもやはり喧嘩中だからなのか、素直にありがとうと言うことはできなかったらしい。

 こんな時でも相変わらずわかりやすい幼馴染に俺は少し安心感を覚えながら、俺は舞葉の撮影場所に向かった。


「じゃあ舞葉ちゃん、今日撮るシーンの舞葉ちゃんの役は、とびっきり楽しいって感じのところだから、いつも通り楽しい感じ見せてね!」

「た、楽しい……頑張ります!」


 その後、撮影が開始されて、舞葉はとても楽しそうな演技をしたが……


「舞葉ちゃん、今日はいつもより顔に緊張感ない?一般の視聴者の人ならこの笑顔でも十分だと思うけど、私ぐらいの人はこの笑顔じゃ演技感ありすぎて作品に没入できないかな」

「ご、ごめんなさい!監督、その……今日、悲しい演技だったら今まででも一番上手にできる自信あるんですけど、楽しい演技は難しいかもしれないです……でも、なら、できます」

「悲しい演技は自信あるって……はぁ、でも……、ね……じゃあ今日はもう帰っていいよ、その代わり、明日も今のままだったら、懐の広い私でも怒っちゃうからね?」


 そう言って、監督さんは舞葉に優しい笑顔を見せた。

 すると舞葉は、それに対して「はい!」と元気に返事をした。

 そして、俺と舞葉は一緒に帰り道を歩き始める。

 今回は、もしかしたら数日間はこの喧嘩が続くかもしれない……そう思っていた矢先に、舞葉が口を開いて言った。


「あ、あのね!私、昨日のこと謝りたいの……!勝手に決めつけて、勝手に怒って……ごめんね!良かったら、私と仲直りしてほしいの!」


 俺は、その舞葉の謝罪に少し驚いた。

 今回の喧嘩は、今までなら舞葉が全然謝ったりせずに、俺が折れて解決していた……そして、今回俺は折れないと決めていたためもっと長く続くかもしれないと思ったが、舞葉がこんなにも早く謝ってきた。


「……わかった、俺も自分が悪くないと思って、ちょっと意地になってたのかもしれないな……仲直りしよう」

「っ……!飛隣、ありがと!……いざ素直になると、こんなにも気持ちが楽になるんだね」

「あぁ、悩んでることとかも、素直になってみたら案外大したことがなかったりするのかもしれないな」

「……素直に」


 俺は軽くその言葉を言ったつもりだったが、舞葉は少し考え込んだ表情をした……そして、舞葉は頬を赤く染めながら言う。


「ひ、飛隣……もし、もしだよ?もし私が、飛隣のことを……」

「舞葉?」


 舞葉は途中でその言葉を言うのをやめて、明るい笑顔で言った。


「な〜んてね!何にも無いよ〜!」


 ……、か。

 ……俺は、舞葉に演技をされるということに、今まで感じたことのない胸騒ぎを感じながらも、その胸騒ぎをできるだけ感じないようにして、舞葉とたわいもない話をしながら一緒に家に帰った。

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