第11話 上機嫌な幼馴染

「舞葉ちゃん、前より大胆な演技上手になったね」


 最近、何度か舞葉の付き添いという形で舞葉のドラマの撮影に来ていて、今日の分の撮影が終わると舞葉は監督さんから褒められていた。


「え?そうですか?」


 舞葉自身には自覚が無いようだが、確かに今までとは違う何かが大きく変わったような気がする……素人の俺にはそれを言葉にすることなんてできなかったが、プロの監督さんはそれをしっかりと言葉にして言った。


「うん、前はその容姿と演技力だけで演技してるって感じで、表面的に見たらそれだけでも十分完璧だったんだけど、今はもっと内面的にも大胆な感じっていうか、前よりももっと舞葉ちゃんの可愛さが活かされてる気がするよ、何か心境の変化でもあったりした?」

「変化……あ〜!ありましたありました!」


 舞葉は何か思い当たることがあるらしいが、そこで何故か俺のことを見てきた……かと思えば、監督さんに大きな声で言った。


「飛隣が、私のこと可愛いって言ったんですよ!可愛いとか綺麗とかっていう褒め言葉を知らなさそうなあの飛隣が!」

「あぁ、そういうことね」

「俺が可愛いって言うだけでそんなに演技が変わるのか?」


 俺がそんな疑問を持っていると、舞葉ではなく監督さんがその疑問に対して答えてくれるのか口を開いた。


「それは変わると思うよ?だって舞葉ちゃんは、誰よりも飛隣くんに────」

「わ〜!わ〜!か、監督!そういえば今日、この撮影場所から近くのスイーツ店が19時から20パーセントオフで食べれるらしいですよ!今日だけ!」

「わ、忘れてた……!ありがとう舞葉ちゃん、飛隣くんも、またね」


 そう言うと、監督さんは急いでこの場を後にした……監督さんのことはあまり知らないけど、とりあえずスイーツが好きなことだけはよくわかったから、今度は差し入れにスイーツでも持って来てみようか。


「はぁ、監督は本当に油断も隙もないなぁ……スイーツ店の20パーセントオフが今日で良かった……」

「そういえば、監督さんがさっき『だって舞葉ちゃんは、誰よりも飛隣くんに────』って何かを言いかけてたけど、あれって何を言おうとしてたんだ?」

「え、え?えっと……『だって舞葉ちゃんは、誰よりも飛隣くん────と思わせて、視聴者の人たちに楽しんで欲しくて頑張ってるんだから』って言おうとしたんじゃ無いかな?うん、きっとそう!」


 舞葉は無理やり自分で何度も頷いてそう言った。


「でも、それだと俺が可愛いって言うだけで舞葉の演技が変わったことの説明にはなってな────」

「細かい男の子はモテないよ!」


 これ以上は聞いてくるな、ということだろうか……とは言っても、俺もそこまで気になるわけじゃないし、別にいいか。


「わかった、じゃあ聞かない」

「え……?そんなに素直に引くってことは……も、もしかして飛隣、本当にモテたいと思ってるの!?」


 は……!?……確かにそう捉えられないわけでもないが────


「なんでそうなるんだ!別にそこまで気になることでも無いから引いただけだ!」

「でも、前だって女の子口説いてたじゃん!」

「あれは口説いてたんじゃなくて話しかけられただけって言っただろ?」

「でも!こんなにモテたそうな疑惑が出るっていうのはやっぱり怪しいよ!火のないところに煙は立たないんだから!」

「舞葉が勝手に俺の敷地内で火を起こしてるだけだ!」


 そんな話をしていると、俺と舞葉は家の前に着いたので、互いに背を向けてそれぞれの家の中に入った。

 ……十数年舞葉と過ごしていれば今までも何度かあったが、これはどちらかが謝るまでは喧嘩が続くパターンのやつだ。

 こういう時は大体いつも俺が折れていたが……今回は俺に一切非が無いため、俺からは謝らないことを決めた。

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