第10話 誤解する幼馴染

「新天さん!昨日テレビでやってた映画観たよ〜!」

「え〜!本当に!?ありがと〜!」

「私も観たよ!後半の緊張感すごかったね!新天さんの演技もすごかったし、超手に汗握ったよ!」

「嬉しい〜!」


 相変わらず今日の朝も登校した瞬間から話題の中心になっている舞葉とは対照的に、俺はいつも通り自分の席に着いた。

 すると、俺のすぐ目の前に女子生徒の制服が映った。


「舞葉か?どうし────」

「ねぇねぇ!見空くんってさ、新天さんと仲良いよね!」

「……え?」


 よく見てみると、そこに居たのは舞葉ではなく、全く接点のない女子生徒だった……舞葉以外の女子となんて高校に入ってからほとんど話していなかったため少し驚いてしまった俺だったが、一応言われたことには返事をしておくことにした。


「仲が良いっていうか、家が近いから一緒に登校したりしてるだけだ」

「え〜!でも毎日一緒に登校とかめっちゃ仲良いよ!見空くんも舞葉ちゃんみたいに俳優さんとかになるの〜?」

「ならない」

「そうなんだ〜、もったいないな〜」

「もったいないって言われるほど何かを持ってない」

「そう〜?舞葉ちゃんと隣にいても違和感ないから、ちょくちょく見空くんの話────」

「二人で何のお話してるの?」


 女子生徒が続きを話そうとしていると、突然俺たちの間に割って入るようにして舞葉が来た。


「に、新天さん!えっと、み、見空くんって、新天さんと仲良いから、もしかしたら新天さんみたいに俳優になるのかな〜みたいな……!」

「飛隣は演技とかできないからなりたくてもできないと思うよ」


 全くその通りだが、舞葉にそう言われると少しムカつくな……とは言っても、舞葉の演技力があるということはこの前の映画を観た時やドラマ撮影を見に行った時に立証されてしまったから、何も言い返すことはできないが。

 ……それにしても、さっきから気になるのは────


「そうだよね!演技の稽古とか難しいんだもんね……!」

「うん……それより、そろそろ席戻ったほうが良いと思うよ?」

「そうだね!じゃあまたね!」


 そう言うと、女子生徒はこの場から去って行った。


「……舞葉、相手は気づいてないみたいだったから良かったけど、今ちょっと雰囲気怖くなかったか?」

「怖くもなるよね、私今飛隣のこと見損なってるんだから」


 ……見損なってる?


「どういう意味だ?」

「飛隣が……の……て」

「聞こえない、もう少し大きな声で────」

「飛隣が私の幼馴染ってこと利用して女の子口説いてたなんて!本当に見損なったから!!」

「は、はぁ!?」


 間違いなく正さなくてはいけない誤解があったため、俺はしっかりとそこを正すことにした。


「口説こうとなんてしてない、むしろ相手から勝手に話しかけて来たんだ」

「だとしても!女の子から話しかけられてどうせ満更でもないとか思ってたんじゃないの!?」

「思ってない」

「じゃあ、可愛いとか思ったんじゃないの!?」

「普段舞葉と一緒に居るのに、そうそう可愛いなんて思うわけがない」

「……え?」


 俺が思ったままを言うと、さっきまで怒っていた様子の舞葉は、急に潮らしい様子になって言った。


「そ、それって……私のこと、可愛いと思ってくれてるってこと?」


 そう聞いてくる舞葉にまたも俺は素直に答える。


「あぁ、思ってる」

「そ、そう、なんだ……へ、へぇ?ひ、飛隣、私のこと可愛いって思ってたんだ〜、そ、そんなこと堂々と言って恥ずかしくないの〜?」

「舞葉のことを可愛いって思ってるから可愛いって言っただけだ」

「か、可愛い……可愛い────わ、私!そろそろ席座らないとだから〜!」


 そう言うと、舞葉は教室の外に出て行ってしまった……同じクラスなのに、一体どこに行くんだ?と思いながらも、俺は大人しく席に座って、舞葉の帰りを待つことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る